高速通信規格「5G」に関する技術情報をソフトバンクから不正に持ち出したとして、警視庁は1月12日、ソフトバンクから楽天モバイルに転職していた男を不正競争防止法違反容疑で逮捕した。企業秘密を守る法律や、侵害された事例など、知っておきたい10項目をまとめた。

(写真:PIXTA)
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1:不正競争防止法とはどんな法律?
2:「不正競争」とは?
3:「営業秘密」とは?
4:不正競争防止法の法定刑は?
5:営業秘密の侵害には、これまでどんな刑事事件があったのか?
6:営業秘密の侵害はどれくらい起きている?
7:不正競争防止法はこれまで何度も改正が繰り返されてきた。
8:近年の改正の背景は?
9:コロナで在宅勤務が増加、企業や社員が気を付けることは?
10:仮に顧客の個人情報だとしても、きちんと秘密であることの表示がされていなければ不正競争防止法で保護されない場合もある?

1:不正競争防止法とはどんな法律?

 事業者間の公正な競争、国際約束の的確な実施を確保するために設けられた法律で、不正競争行為に対する差し止め請求権や損害賠償請求権などを規定している。

2:「不正競争」とは?

 不正競争防止法で定義する不正競争行為には、

  • 他人の商品や営業の表示として消費者の間に広く認識されているものと同一、または類似の表示を使用して混同を生じさせる「周知表示混同惹起(じゃっき)行為」
  • 他人の商品・営業の表示として著名なものを、自己の商品や営業の表示として使用する「著名表示冒用行為」
  • 他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡するなどの「形態模倣商品の提供行為」
  • 窃取などの不正な手段によって営業秘密を取得して自ら使用、もしくは第三者に開示する「営業秘密の侵害」

などがある。

 楽天モバイルの社員が逮捕された今回の事件の容疑は「営業秘密の侵害」に該当する。

3:「営業秘密」とは?

 不正競争防止法第2条第6項では「この法律において『営業秘密』とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」とある。

 経済産業省知的財産政策室は、営業秘密の3つの要件として

  1. アクセス制限やマル秘表示があるなど、従業員などがその情報が会社にとって秘密にしたい情報であると分かる程度に「秘密として管理されていること」
  2. 脱税情報や有害物質の垂れ流しの情報など公序良俗に反する内容ではなく、「有用な技術上または営業上の情報であること」
  3. 合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物には記載されていないなど、保有者の管理下以外では一般的には入手できないよう「公然と知られていないこと」

と解説している。

4:不正競争防止法の法定刑は?

 不正競争防止法は、不正競争行為に対する救済措置として差し止めや損害賠償額についてのほかに、刑事措置も定めている。

 営業秘密の侵害については10年以下の懲役、または2000万円以下の罰金を定めている。また海外での使用を目的とする場合は3000万円以下となる。

 また法人に所属する役員や従業員らが法人の業務に関連して違法行為をした場合は、個人だけでなく法人も併せて罰せられる両罰規定もあり、5億円以下の罰金(海外使用などは10億円以下)と定められている。

5:営業秘密の侵害には、これまでどんな刑事事件があったのか。

 これまで大手企業でも、営業秘密が侵害される事件は発生している。

 例えば2013年には、ベネッセコーポレーションから業務委託を受けて保守管理を担当していた元システムエンジニアが業務用パソコンから私物のスマートフォンに顧客データを移し、名簿事業者に売却。東京高裁は懲役2年6月、罰金300万円の判決を言い渡した。14年には東芝の半導体メモリーに関する研究データを韓国企業に渡したとして提携先の元社員が逮捕され、その後、懲役5年、罰金300万円の判決が出ている。

 また、19年6月には京都府警が電子部品メーカーNISSHAの機密情報を持ち出したとして元社員の男を逮捕。20年1月にはロシア外交官の求めに応じて社内の機密情報をコピーした媒体を渡したとして、元ソフトバンク社員が警視庁に逮捕されている。

 

6:営業秘密の侵害はどれくらい起きている?

 警察庁の統計によると、2013年に12件だった営業秘密の侵害に関する警察の相談受理件数は17年には72件まで増加。その後も50件近く起きている。検挙事件数も13年の5件から19年の21件へと増えている。

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7:不正競争防止法はこれまで何度も改正が繰り返されてきた。

 営業秘密の侵害など、不正競争行為に対する差し止め請求権や損害賠償請求権などを規定している不正競争防止法はこれまで多くの改正を重ねてきた。

 16年1月に施行された改正法では、罰金の上限額が個人で1000万円、法人で3億円だったものを、個人で2000万円、法人は5億円と現在の水準へと引き上げた。また、海外への営業秘密の流出を重視し、相手が外国企業の場合は個人3000万円、法人10億円の罰金を科せるように重罰化した。

 加えて、このときの改正では、それまで営業秘密侵害罪での起訴には被害者側の告訴が必要だったが、非親告罪へと変更されたほか、営業秘密の侵害が未遂であっても処罰の対象となった。また、民事訴訟でも、情報を盗まれた企業が盗んだ企業を提訴する際に主要な立証責任を被告企業側に負わせる仕組みも取り入れて、被害企業の立証負担を軽減した。

 19年7月に施行された改正法では「限定提供データ」制度を新設。他社との共有を前提にIDやパスワードなど一定の条件の下で利用ができるデータについては、それまで営業秘密には当たらず直接保護する法律の規定はなかった。だが、改正で新たに不正競争防止法の保護対象に加わり、不正に外部に流出したり、使用したりした場合は差し止め請求などができるようになった。

8:近年の改正の背景は?

 経産省は16年に施行した改正法の背景として企業の知財戦略として「オープン&クローズ戦略」が広まって営業秘密の価値が再認識されていることや、営業秘密の漏えいに関して大型事案が顕在化していること、前述したように事案数が増加傾向にあることを挙げている。

 学習院大学法学部の横山久芳教授(知的財産法)は「罰金の上限額など、諸外国と比べてもそん色のない手厚い保護が図られている」と指摘する。

9:コロナで在宅勤務が増加、企業や社員が気を付けることは?

 経産省は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて多くの企業で在宅勤務などのテレワークが行われてきた20年5月に「テレワーク時における秘密情報管理のポイント」として、企業側のセキュリティー確保の方策などを示した。

 この中ではテレワークの浸透によって「日頃は企業内部で厳密に保管されている情報を紙媒体で持ち帰って、あるいは、自宅等外部から共有ドライブにアクセスして業務を遂行することも生じます」とした上で、営業秘密管理規定やセキュリティ規定などの社内規定がテレワークに即したものになっているかを確認することや、営業秘密に該当する情報に「マル秘」や「社内限り」などの秘密であることの表示を付記することなどの対応策を示している。

 横山教授は「データや書類の持ち出しが増えている分だけ、秘密管理の徹底がより必要になっている」と話している。

10:仮に顧客の個人情報だとしても、きちんと秘密であることの表示がされていなければ不正競争防止法で保護されない場合もある?

 横山教授は「新規の開発の技術情報など誰が見ても秘密にすべきことが明らかな情報の場合は、秘密管理がたとえ緩かったとしても認められるケースはあるだろうが、顧客情報などは営業秘密かどうかはっきりしないことが多い。そのため、あらかじめ企業側がきちんと秘密情報であることを示しておくことが重要だ」としている。

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