人間の境界(2023)

原題のZielona Granica」とは”緑(森林、草地、茂み)の境界線”という意味で

ここではポーランドベラルーシ森林地帯にある国境線のこと

 

久々に頭をガツンと殴られるような映画に出会いました

難民問題を看過、黙認している政府やUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)

そして私たちに国境で起きている現実を突きつけているかのようです

それでもあなたは「知らないふりをするのか

最初は実際の難民、国境地帯の住民、難民支援活動家、匿名の国境警備隊

などによる証言や資料を元にドキュメンタリー作品の制作を

考えていた(撮りためていた)そうですが

ポーランド政府関係者(極右勢力)からの迫害により

現場(国境付近)での撮影が困難を極めため、劇映画に変更

しかし製作費は集まらず、撮影はわずか24日間で終了

多くのクルーは低賃金または無給で働いたそうです

映画としての質は素晴らしいですね

監督のアグニエシュカ・ホランド

クシシュトフ・ザヌッシの助監督や

アンジェイ・ワイダ作品の脚本も手がけていたというだけあって

いかにも実存的なポーランド派リアリズムで

決してメロドラマに陥ることなく、現実を暴露しようと試みる

民主主義の破滅を少しでも食い止めるために

物語は4章とエピローグによって構成されています

コロナ渦中の202110

(背後にロシアを抱える)ベラルーシでは、トルコやイラクの航空便を使って

中東やアフリカ難民のための「移民ツアー」を行い

ベラルーシと国境を接するポーランド(やリトアニアラトビア)に

EU経済の混乱と兵力を分散させるため)大量の難民を不法に越境させ

ポーランド政府は、なだれ込む難民たちを(受け入れるのではなく)

ベラルーシ側へ強制的に送り返す措置をとっていました

1章の「THE FAMILY(家族)」は

そうとは知らず、大金を払い移民ツアーを申し込んだ

スウェーデンを目指すシリア人のバシール一家6人家族と

(夫バシール、妻レイラ、息子ヌール、娘ガリア、乳児、祖父モハメド

一家と飛行機で知り合ったアフガニスタン人女性のレイラ

空港まで迎えに来た車で国境まで連れていかれ

ポーランドに入国したものの、すぐに国境警備隊のトラックに載せられ

アフリカ系難民とともにベラルーシに戻されてしまいます

ベラルーシの難民キャンプでは非人道的な扱いを受け

再びポーランドに入国させられるとまたもや国境警備隊に捕まり

(妊婦も老人もおかまいなし)ベラルーシに投げ込まれるという繰り返し

ここではスマホが命綱になるわけですが

(地図の確認、翻訳、EUにいる親族に助けを求めたり位置を知らせることができる)

圏外だったり、バッテリー切れだったり、警備隊に見つかり壊されてしまいます

(飛行機で呑気にゲームなんかやったりするから・・)

2章の「THE BORDER GUARD国境警備隊)」では

ポーランド国境警備隊に配属になったばかりのヤネクを中心に描かれます

指揮官は難民を「プーチンとルカシェンコの武器」「実弾」「テロリスト」と呼び

難民を受け入れないことを正当化して教え込みます

ヤネクの奥さんは臨月で、新居を建設中

まだ家具も台所もないのに蒸留酒の製造機だけはあります(笑)

つまり「飲まずにはやってられない」ということなのでしょう

(アルコールによる死亡率はベラルーシ1位、ポーランド7とか

3章は「THE ACTIVISTS(活動家たち)」

1章2章でポーランド人はなんて冷たい人種だと思ってしまうわけですが

ここでは難民を支援するNGOの活動家グループが描かれます

負傷した難民を治療し、衣類や靴や食料などを提供

難民たちの話を聞き証拠としてスマホで録画

希望者には正式に亡命の手続きを行います

そこでアフリカ系の妊婦が出血しているため救急車を呼ぶと、来たのは警備隊で

(亡命申請があるにもかかわらず)難民たちをトラックに乗せ

ベラルーシに送り返すため国境に向かいます

国境付近は立入禁止区域で活動家たちも入れません(逮捕されてしまう)

国境で難民が警備隊に抵抗している隙に

レイラと少年ヌールは走ってポーランド側の森に逃げ

妊婦が鉄条網の向こうに放り投げられる様子をスマホで撮影し送信するバシール

ヤネクの妻はニュースで妊婦がベラルーシに投げ捨てられる動画を見て

そこに映っていた警備隊員の制服の番号がヤネクのものであることに気付き

夫が国を守る仕事に就いて居ると誇りに思っていたぶんショックを受けます

4章は「JULIA(ユリア)」

コロナ渦で夫を亡くし都会から国境近くに越してきた精神科医のユリアが

リモートで患者のボグダンを診察しています

ボグダンは不安症による薬物中毒で極右政権に恐怖を募らせていました

 

その夜、助けを求める声が聞こえその方向に向っていくと

レイラとヌール沼地に首までつかり抜け出せないでいました

ユリアがすぐに救急隊を呼んだものの、ヌールは溺死

レイラは動画を撮影しヌールの家族に「苦しまずに死んだ」ことを伝えます

レイラを助けに来た難民支援活動家のマルタらとりあったユリアは

医師らの反対をよそに、まだ回復していないレイラを

ポーランド当局が警備隊に引き渡すところを目撃します

(その後国境付近で遺体で見つかったレイラはベラルーシ側に投げ捨てられる)

マルタに難民の救出に協力するため

医薬品や食事、自宅の部屋を提供したいと申し出るユリア



ベラルーシにいたバシール一家

ヌールの死を知ったと同時にポーランドに追いやられ

抵抗した祖父のハメド殴打されます(たぶん殺された)

難民支援グループは森で怪我で動けなくなったロッコ人難民のアフマドを発見

ユリアは仲間と連絡したいという彼にスマホを貸し

アフマドを(担架などなく)運ぶことができず

一晩そこに残すことになると真夜中にひとり車で迎えに行きます

しかしアフマドはどこかに消え、代わりに現れた警備隊が

ユリアの貸したスマホで位置情報が知れたのかも知れない)

立入禁止区域への侵入でユリアを逮捕します

 

屈辱的な身体検査を受け拘留されたユリアですが

親切な女性刑務官のおかげで弁護士に連絡することができ釈放

弁護士も、弁護士が紹介してくれたレッカー会社の運転手も良い人で

(ユリアの車は落書きされ破壊されていた)

アフリカ系難民の少年3人を保護したユリアは

右政権反対の)ボグダンに連絡し少年らを匿ってもらいます

国境地帯から抜け出し市街地まで辿り着いたバシール一家は

スウェーデンにいる弟が手配してくれた迎え(密輸業者)を待っていると

(乞食同然の彼らを見た)幼い女の子が母親相談し菓子パンを渡します

(人間は本能で(幼いほど)分け与えることを知っているそうです)

 

トラックがやって来て、運転手はバシール一家を荷台に隠し乗せ

しばらくすると国境警備隊に停められます

ヤネクは荷台を確認し、同僚は書類の確認

荷物の段ボールの向こうに隠れている何者かと視線が合ったものの

ヤネクは同僚に異常なしと答えのでした

ボグダン家ではフランス語を話せる姉弟

少年たち意気投合し一緒にラップをはじめます

千人の人に

千人の死

 

もし未来に平和があるとするならば、それを担うのは若い人々

年寄の「昔は良かった」という美化された記憶

人道より一国の反対を尊重するような国連(常任理事国)に

殺されたくなんかないんだよ

エピローグ

翌年20222月、ロシアがウクライナに侵攻

ポーランドに最初の2週間で200万人のウクライナ難民が押し寄せますが

ウクライナ国境でもベラルーシ国境でも

活動する国境警備隊や難民支援のボランティアは同じ

ベラルーシでもこれぐらい優しければね」と

マルタはヤネクを皮肉るのでした

 

2014以降、EUの森林国境線で命を落とした難民は3万人

今もなお難民の命は失われ続けているそうです

 

 

【解説】映画.COMより

ソハの地下水道」などで知られるポーランドの名匠アグニエシュカ・ホランドが、ポーランドベラルーシの国境で“人間の兵器”として扱われる難民家族の過酷な運命を、スリリングな展開と美しいモノクロ映像で描いた人間ドラマ。ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす目的で大勢の難民をポーランド国境に移送する“人間兵器”の策略に翻弄される人々の姿を、難民家族、支援活動家、国境警備隊など複数の視点から映し出す。
ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、安全にヨーロッパに入ることができる」という情報を信じ、幼い子どもを連れて祖国シリアを脱出した家族。やっとのことで国境の森にたどり着いたものの、武装した国境警備隊から非人道的な扱いを受けた末にベラルーシへ送り返され、さらにそこから再びポーランドへ強制移送されることに。一家は暴力と迫害に満ちた過酷な状況のなか、地獄のような日々を強いられる。
キャストには実際に難民だった過去や支援活動家の経験を持つ俳優たちを起用。2023年・第80ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員特別賞を受賞した。

2023年製作/152分/Gポーランド・フランス・チェコ・ベルギー合作
原題または英題:Zielona Granica
配給:トランスフォーマー