オオカミの家(2018)

原題は「La Casa Lobo」(オオカミの家)

物語はオオカミに追われた少女が森にある家に逃げ込み

2匹の子ブタと暮らすようになる、というものですが

 

一言でいえば、かなり病んでいる

不気味で、アンバランス、後味の悪さ

だけど圧倒的な威圧感に目が離せない

アール・ブリュット」な感じ

 

アール・ブリュット」(生の芸術)とは

「正規の美術教育を受けていない人による芸術」

「既存の美術潮流に影響されない表現」と説明される絵画や彫刻のことですが

日本では(精神・知的)障害者の表現のあり方のひとつとして

推進されているもの

作者のクリストバル・レオンとホアキン・コシーニャはともに1980年生れ

キチンと芸術、映像を学んでいる

チリのストップモーション・アニメ映画製作者

決してアール・ブリュット作家ではないのですが

 

本作がインスパイアされたという

実在したカルト・コミューン「コロニア・ディグニダ」のことを知ると

このグロテスクさで表現するのが一番正しい方法なのが理解できます

 

恐怖による洗脳、自我の喪失

言語化できないトラウマの視覚化は

ほかのものとは比べ物にならない

「胸糞映画」としても上位ランキング

「助け合って幸せに」がモットーの

チリ南部にあるドイツ人移民による集落「コロニア」 で

動物が大好きだというマリアという美しい娘がブタを逃がしたことで

厳しい罰に耐え切れず「コロニア」 から脱走します

 

森で狼に追われ、逃げ込んだ一軒家で2 匹の子ブタと出会うと

マリアはブタに「ペドロ」「アナ」と名付け世話をします

さらに魔法でペドロとアナを人間の姿にし、疑似家庭を築きます

でも平和な日々もつかの間

森の奥からマリアを探してやってきた

オオカミの誘惑する声が聞こえるようになります

「コロニア・ディグニダ」とは第二次世界大戦

ドイツ移民によってチリに設立された宗教&農業コミュニティで

創設者でありカリスマ指導者のドイツ人のキリスト教牧師

パウルシェーファー(1921-2010)は

ピノチェト将軍の軍事独裁政権(1973-1990) の下

コロニア内で反体制派の強制収容、拷問、殺害を行い

暴力と薬物によって人々を支配するようになります

それらの人権迫害とは別に

 

すべての子どもたちは家族から引き離されると

少年たちは性的身体的虐待を繰り返され

少女たちは「ブタ」と呼ばれ、過酷な労働を強いられたそうです

(チリに移民する前の西ドイツでも児童虐待の罪で告発されていた)


オオカミから逃げた主人公マリアは

辿り着いた森の家でペドロとアナと名付けた2匹のブタと暮らすものの

火事でブタが死んでしまうんですね

「オオカミ」の声はそれをマリアのせいだと、マリアの無能を罵ります

 

森の家は色や形を変え、明るくなったり、暗くなったり

花が飾られたと思ったら、ゴミだらけになる

蟲が、無数に伸びた手が、マリアの身体を這い回る

 

マリアはペドロとアナに(万能薬の)甘い蜜を与えて蘇らせ

いっときは幸せな時間を過ごすものの

今度は食べ物がないことに気がつく

空腹なペドロとアナはマリアが食べ物をひとり占めしていると思い

マリアを食べようと計画

コロニアにリンゴを探しに行くというマリアを

ペドロとアナはベッドに縛り付けます

 

オオカミに自分を救ってほしいと祈ってしまうマリア

するとオオカミが家に入ってきて、アナとペドロを殺すと

マリアは鳥に変身して飛んでいったのでした

狂気と妄想

正気では生きてはいけない

 

オオカミ(ナレーション)は、コロニアに戻ったマリアは

親切で勤勉な精神を取り戻したと言います

さらにオオカミは聴衆の「子ブタ」もコロニアで引き取ると申し出

世話をすることを約束します(演出としてのプロパガンダ

1996年になり26人の子どたちが虐待を報告

サンティアゴの裁判所はシェーファーの逮捕状を発行しますが

シェーファーは無実を訴え失踪

1997年には新大統領の下、チリ当局が児童性的虐待で起訴

ドイツとフランスからも指名手配されますが

 

シェーファーが逮捕されたのは2005年になってから

アルゼンチンの高級ホテルラス・アカシアスに身を潜めてるのを発見

2010年、サンティアゴの刑務所病院で心不全のため息を引き取ったそうです

享年88歳

多くの人の命を奪い、子どもたちの人生を狂わせた男の受けた刑罰は

たった5年間でした

 

現在「コロニア・ディグニダ」は「ヴィラバビエラ」 と改名され

観光地として開放されているそうです

 



【解説】映画.COMより

チリの2人組監督クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャの初長編作品で、ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューン「コロニア・ディグニダ」に着想を得て制作したストップモーションアニメ。
美しい山に囲まれたチリ南部で、「助けあって幸せに」をモットーに掲げて暮らすドイツ人集落。動物が大好きな少女マリアは、ブタを逃してしまったために厳しい罰を受け、耐えきれず集落から脱走する。森の中の一軒家に逃げ込んだ彼女は、そこで出会った2匹の子ブタにペドロとアナと名づけて世話をするが、やがて森の奥からマリアを探すオオカミの声が聞こえてくる。マリアがおびえていると子ブタは恐ろしい姿に変わり、家は悪夢のような世界と化す。
2018年・第68回ベルリン国際映画祭フォーラム部門でカリガリ映画賞、第42回アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員賞を受賞した。

2018年製作/74分/G/チリ
原題または英題:La Casa Lobo
配給:ザジフィルムズ