
原題は「The Brutalist」で
1950年代から70年代にかけて流行した建築様式のこと
劇場の入り口で「建築家ラースロー・トートの創造」というパンフレットが配られ
それがとてもよくできていて
実在の建築家の伝記映画かと思ってしまいました(笑)
実際使われている家具や建築物のデザインは素晴らしく
オープニングタイトルや斜めってるエンドクレジットも挑戦的
まだ36歳という監督、ブラディ・コーベットの若いセンスが光ります
(人によっては目障りに感じるかもしれません 笑)

主人公の妻のハンガリー語や、一連の建築図面や完成した建物の生成に
AI技術(Respeecher)を使ったことでも物議も醸していますね
俳優組合(SAG-AFTRA)と脚本家組合(WGA)がストライキによる争議で
AIから労働者を守る保護規定を勝ち取ったというのに
(同様の議論は「エミリア・ペレス」でも起きている、らしい)

主人公はブルータリズムの先駆者である
(塗装や化粧板は使わない、打放しコンクリートなど彫塑的表現が特徴)
マルセル・ブロイヤー(1902~1981)というユダヤ人建築家を
モデルにしているそうですが(よく親族が苦情を出さなかったな)
ブロイヤーはバウハウスの閉校後
(現代のモダンなデザインの基礎を作り上げたドイツの美術・建築の専門学校)
イギリスに渡っているので(のちにアメリカに渡る)
強制収容所に入った経験や、反ユダヤに対する抵抗はなかったそうで
あくまで主人公はオリジナルのフィクション

物語は前半「序曲」「第1部 到着の謎1947-1952」で100分
15分の「インターミッション」
後半「第2部 美の核芯 1953-1960」「エピローグ 第1回建築ビエンナーレ1980」
で100分という構成になっています
なので100分の映画を2本見た、という感じで
ダレることなく最後まで見ることができました

前半はまあまあ面白いです
1947年、ホロコーストを生き延びたものの
愛する妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と
姪(妹の娘)のジョーフィア(ラフィー・キャシディ)と引き裂かれ
アメリカに渡ったユダヤ人、ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)
真っ暗な船室から、青空を背景に自由の女神のショットが映し出される
掴みはばっちり

下船したとき与えられたわずかな資金を持って
ラースローがまず向かったのは売春宿(笑)
そこから家具店を営む従兄弟アッティラを頼りにフィラデルフィアに行き
妻と姪が東ドイツで生きていることを知らされます
アッティラは妻オードリーがカトリック教徒のためカトリックに改宗
名前もアメリカ風に変えていました
アッティラの店の物置を間借りし、家具のデザインを手伝うラースロー

ある日、富豪の息子ハリー(ジョー・アルウィン)が訪ねてきて
邸宅の書斎を、父親の留守中に改装してほしいと頼みます
ラースローは食料の配給場所で知り合った
シングルファザーの黒人男性ゴードンらを雇い
機能的でモダンな図書室を作り上げますが
予定より早く帰宅した父親のハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアース)は
年老いた母が黒人に怯えていると、改装に激怒し料金を支払いませんでした

アッティラはラースローに全ての責任を押しつけ
さらに妻のオードリーにも色目を使ったと、出て行くように命じます
3年後、(ヘロイン中毒になっている)ラースローはゴードンと共に
慈善住宅(ホームレスのためのシェルター)に住み
石炭を積み込む労働をしていました

そこにハリソンが、ラースローの設計した図書室が称賛され雑誌に掲載されたと
未払いだったお金を支払いに来ます
そのお金でゴードンとヘロインを買い、女性も買うラースロー(笑)
ハリソンにホームパーティーに招待されたラースローは
亡き母に敬意を表したコミュニティセンターを建設してほしいと頼まれます
名付けて「マーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティセンター」
やがてそれは図書館、劇場、体育館、礼拝堂という
4つの建物をひとつにした大きなプロジェクトとなります

さらにハリソンはラースローに
副大統領にもコネがあるという彼の弁護士を紹介し
ラースローの妻と姪がアメリカに来れるよう手配させます
普通ならここからアメリカンドリームを掴み取る展開になるのでしょうが
・・違いました(笑)

後半は1953年になり、妻エルジェーベトと姪のジョーフィアと再会
エルジェーベトは栄養失調による骨粗しょう症で歩けなく
ジョーフィアは話すことができなくなっていました
ラースローにジョーフィアに愛想よくするよう頼むハリー
ラースローはジョーフィアにハリーを避けるように警告しますが
ジョーフィアはハリーにレイプされたと思われます

コミュニティセンターの建設では請負業者やコンサルタントと衝突し
削られた予算を補うために自分の給料で払うというラースロー
(USスチール買収を阻止するためのプロモーションのような映像が流れる 笑)
さらに資材を運ぶ列車が事故を起こし作業員2名が負傷
作業員の家族に訴えられたら莫大な訴訟費用がかかることを受け
ハリソンは工事を中止し労働者たちを解雇してしまいます

5年後、ラースローはニューヨークの建築事務所で
エルジェーベトは新聞のコラムニストとして働いていました
ジョーフィアは話せるようになっていて、すでに結婚しおめでたでもあります
ふたりのもとに夫とイスラエルに引っ越すことを報告に来ます

世界中で「シオニズム運動」(祖国復帰運動)が起こる中
パレスチナを統治していたイギリスが、ユダヤ人の国家建設を支持 (三枚舌外交)
さらに1947年国連決議がパレスチナ分割決議を採択

イスラエル建国からまだ10年、ラースローとエルジェーベトは
仕事はあるのか、生活はどうするのかと心配しますが
「私たちの故郷はイスラエル」なのだと、ジョーフィアの決意は固いものでした
赤ちゃんの面倒を見れないと、寂しがるエルジェーベト

そんなときハリソンが、列車事故が保険金で解決したからと
コミュニティセンターの建設を再開してほしいとやって来ます
教会の祭壇を作る大理石を買うため、イタリアのカラーラの鉱山向かう
ハリソンとラースロー
その夜泥酔してしまったラースローはハリソンに強姦されてしまいます

ここからハリソンとラースローの関係が崩壊するように
映画の内容も崩壊していきます(笑)
しかも伏線の何の答えも出さず、全て丸投げという荒業に出ます
ラースローはますます酒とコカインに溺れるようになり
足場を鉄棒がわりに遊んでいた従業員を衝動的に解雇したり
そのことでゴードンと口論なると、彼までクビにしてしまいます
しかも関係が修復するわけでもなく、それっきり(笑)

ラースローの変化にエルジェーベトも気付いていました
ある夜彼女が骨粗鬆症の痛みを発症し苦しんでいると、痛み止めが切れていて
ラースローは洗面台の下に隠していたヘロインをエルジェーベトに注射すると
自分にも注射します
その後ふたりは気持ちよくなりセックスしますが
(妻の顔を隠すって失礼すぎじゃね?)
エルジェーベトが意識不明になり
病院で目を覚ましたエルジェーベトは
ハイになったラースローが全てを告白したことを打ち明け
自分たちもイスラエルに行き、ジョーフィアの家族と一緒に暮らすことを提案します

歩行器を使って歩けるようになったエルジェーベトはハリソンの自宅を訪れ
家族と友人たちの前で彼を強姦犯と呼びます
娘のマギーは父親がエルジェーベトを襲ったと思いますが
ハリーは父親の嗜好を知っていたようでした
もしかしたらハリーは父親から性的虐待を受けていたのかも知れませんし
ハリーとマギーの近親相姦であることを思わせるようなシーンもありました

マギーがエルジェーベトをタクシーに乗せて帰し
ハリーは父親を探しますがハリソンはどこにも見つかりません
最後までハリソンがどこに消えたのか、明かされることはありません

ラストは1980年に開催された建築展、ヴェネツィア建築ビエンナーレで
エルジェーベトはすでに亡くなっていて
ジョーフィアが成長した娘と年老いたラースローを伴いスピーチします
ラースロが30年にわたりアメリカで素晴らしい建築物を創造したこと
その中でも10年の中断を経て完成した
ヴァン・ビューレン・コミュニティセンターは
強制収容所と同じ構造の設計であったことを伝えます
最後はラースローがかつて彼女に伝えた
「大事なのは到達地だ 旅路ではない」という言葉で締めくくられたのでした

アメリカからも白人社会による資本主義思想、人種や宗教による差別
性的摂取という迫害を受け続けてきた
だからシオニズムは正しい、という主張でよろしいのでしょうか
それが今や「期待していた」はずのトランプ大統領が
ネタニヤフとってイスラエルの領土であるガザを
「アメリカが所有する」と言い出してきた
偶然ですがタイムリーすぎて
8年前とは違う、トランプ批判とも受け止めることができます

私は溜息建築物が結構好きなので(笑)
(いつかブラジルに行って見たいオスカー・ニーマイヤー)
できればコミュニティーセンターにも人種や宗教関係なく
たくさんの人々集うような平和的なラストで終わらせて欲しかったですね
建築とはそういうものであると、私は思うから
【解説】映画.COMより
「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディが主演を務め、ホロコーストを生き延びてアメリカへ渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家の数奇な半生を描いたヒューマンドラマ。2024年・第81回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞し、第97回アカデミー賞でも作品賞ほか計10部門にノミネートされた。
ハンガリー系ユダヤ人の建築家ラースロー・トートは第2次世界大戦下のホロコーストを生き延びるが、妻エルジェーベトや姪ジョーフィアと強制的に引き離されてしまう。家族と新しい生活を始めるためアメリカのペンシルベニアに移住した彼は、著名な実業家ハリソンと出会う。建築家ラースローのハンガリーでの輝かしい実績を知ったハリソンは、彼の家族の早期アメリカ移住と引き換えに、あらゆる設備を備えた礼拝堂の設計と建築を依頼。しかし母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には、多くの困難が立ちはだかる。
「博士と彼女のセオリー」のフェリシティ・ジョーンズが妻エルジェーベト、「メメント」のガイ・ピアースが実業家ハリソンを演じた。「ポップスター」のブラディ・コーベット監督がメガホンをとった。
2024年製作/215分/R15+/アメリカ・イギリス・ハンガリー合作
原題または英題:The Brutalist
配給:パルコ