マネジメント論の系譜をさかのぼると、いまからちょうど100年前、アメリカのF・テイラーが提唱した『科学的管理法』にいきあたる。鉄鋼会社の技師長であったテイラーが考えたのは、工場における労働者の生産性を上げるにはどうしたらよいかという問題だった。テイラーは労働者の作業動作を時間の観点から分析することからはじめた。ストップウォッチを片手に、どのような動作をおこない、どのようなタイミングで休憩をとるのが一番生産性を高めるか、さまざまな観察と実験をおこなう。そして、そこからベストの作業手順を編み出すのである。
彼が実際に示した有名な例は、工場で銑鉄(ズク)のかたまりを運搬する作業だった。それ以前の現場では、労働者がどんなに頑張っても一人一日あたり12.5トンが限界だった。しかしテイラーは時計で時間を計りながら観察と実験をくり返し、作業を改善していく。そしてその結果、労働者の運搬量はなんと1日47トンまで増大した。しかも彼は休憩の頻度と長さについても改善し、1時間のうち働いている時間が平均25分、休んでいる時間が35分がベストであることを見いだした。つまり、労働時間の半分以上は休憩しているのである! 究極の時間管理術だといえよう。 テイラーの時代、労働者の賃金は日給や時間給ではなく、出来高払い制が多かった。すなわち、彼の科学的管理法のもとでは、労働者は前よりも多く休んで、かつ高い賃金をもらうことができるようになったのだ。また経営者の側も、4倍もの生産性向上を得ることができたのである。今で言うWin-Winの関係だ。 テイラーの手法は、タスク(Task=課業)の概念、作業の分解と標準化、そして計画と実行を分離した機能組織からなっている。とくに時間研究と作業研究は科学的管理の中心手法として発展した。これを、IE=Industrial Engineeringと呼ぶ(日本語では「経営工学」とよばれる分野である)。そして、この手法は米国産業が大量生産時代に突入するとともに、どんどん普及していった。 ところで、ここまで読んだ人の中には、「マネジメントとは、単なる動作の改善よりももっと広い仕事だろうに」と思った人もいるにちがいない。そのとおりだ。では、その広い仕事とは、いったい何をさすのか。どうすればうまくいくのか? ここに、アンリ・ファヨールというフランスの鉱山会社の社長が登場する。この人はテイラーとほぼ同時代の、手腕ある経営者だったが、抽象思考も得意だったらしく、『管理過程論』という考え方を提唱する。マネジメントの仕事とはプロセス、すなわち「何を」でなく「いかに」を組み立てることだ、とファヨールはいう。そのために彼は、今日でいうPDCAに相当するマネジメント・サイクルを定義する。さらに、組織における「ライン」と「スタッフ」の分化を明らかにし、また、マネジメントにおいて従うべき原理原則を定義した。 エンジニアリング(工学)的観点にたつテイラーに対し、ファヨールは組織とルールという社会科学的な切り口から問題をみている。しかし、この二人に共通しているのは、「マネジメントは科学的でなければならない」という意識だ。経験や慣習や勘や度胸だけでなく、合理的なアプローチで改良されるべきだ、という信念だ。トップの出身階級や性格や人徳だけでは、人はうまく動かないと、彼らは考えた。だからテイラーとファヨールは、今日の経営学の創始者とよばれている。 ちなみに、テイラー以前のアメリカの産業界では、マネジメントとは労働者を命令と賃金と罰則で動かすことと同義語だった。これはすなわち、奴隷制のプランテーション経営の発想である(アメリカの産業革命を支えた労働力は、南北戦争の結果として奴隷状態から「解放」されて都市に流入してきた黒人労働力だった)。このような奴隷労働的な経営思想は、現代に至るまで米国流マネジメント観の底に流れていてることも忘れてはならない。彼はこうした思考法に変革を起こそうとしたのである。 さて、戦後日本は、機械や電子など要素技術の導入には熱心だった。が、管理技術には(統計的品質管理を除けば)あまり関心がなかったようだ。だから今でも、IE屋が全く居ない工場、原理原則を学ばないプロジェクト・マネージャー、管理過程論のことを何も知らない経営者が少なくない。 「今日のマネジメントは素人がやっている」と100年前のテイラーはなげいた。それから1世紀たった今、我々はどれだけ前進したのだろうか。世間の経営流行をおって右往左往していないか。彼らの残した宿題を、我々はまだやり終えてはいないのである。
by Tomoichi_Sato
| 2007-09-15 23:57
| E1 マネジメントの技術論
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