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スマート製造のボトルネックはどこにあるのか?

  • 「生産システム」のIPOモデルとは

時折頼まれて生産マネジメントの研修セミナーの講師を引き受けることがある。その時大体いつも最初に話すのが、「工場を生産のためのシステムとして捉える」と言うトピックだ。

システムと言うと、すぐコンピューターと情報システムを連想する人がほとんどだろう。だが、ここで言うのは「仕組み」の意味で、人間を含むいろいろな要素が、互いに機能し合い、助け合って目的を達するメカニズムのことだ。現代のシステムズ・エンジニアリングでは、仕組みを理解するために、「IPOモデル」を用いる。インプット・プロセス・アウトプットの略である。

工場という仕組みの主要なアウトプットは、当然ながら製品=プロダクトである。プロセスは文字通り、製造工程である。では、主要なインプットは何だろうか。

それは部品材料だ、と言うのが昭和時代の答えだった。部品材料をインプットして、製品というアウトプットを生み出す。これが工場だ、と。まあ部品材料以外に、副資材や用役などもサブのインプットとして必要だろうが。


  • 需要情報と、製造業の変化

ところが現代では、この答えはもはや、間違いなのだ。現代の工場の主要なインプットは何か。それは、「需要情報」である。需要情報をインプットして、製品(の形に込められた付加価値)をアウトプットする。サブのインプットとして、部品材料や副資材・用役を用いる。これが現代の生産システムの姿なのだ。

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なぜ、そう言えるのか? 考えてみてほしい。あなたがどこかの工場の、工場長さんだったとする。あなたは、「部品材料があるなら、その分だけ製品を作れ」と指示するだろうか? 需要を無視して勝手に製品を作っても、ムダな製品在庫が積み上がるだけかもしれない。だから需要の明確な製品を優先して、作ろうとするだろう。すなわち、需要情報がメインのインプットに変わったのだ。

このような変化の起きた理由は、単純である。物不足時代は昭和で終わり、市場が成熟した。もはや「作れば売れる」時代ではない。だから企業は差別化を求めて、製品種類を増やしてきた。種類が増えれば、単純な外挿による昨年度並みの計画では当たらなくなる。かくして需要情報が、いちばん大事な、メインのインプットの座につくことになった。製造業とは、需要情報を得て、それを製品に変換する仕事になった。

すなわち製造業の中核部分は、じつは情報処理産業に変わったのだ。この変化にいち早く気づいた欧米人たちは、「スマート製造」とか「インダストリー4.0」といったスローガンによって、この変化を先取りしようとしている。


  • 設計機能の問題

ところが、ひるがえってわが国では、このような意識変化についていけてない企業や、経営者・メディア・学者たちがまだまだ多いように思われる。

情報処理産業である以上、組織の外部からの情報を収集し取り込む「感覚器官」が必要だ。もちろん組織内部の状態をセンシングする内的感覚器官もなくてはならない。そして何よりも、外と内、中枢と末端をつなぐ情報のチャネル=中枢神経系が必要である。神経系である以上、バケツリレーではなくリアルタイム伝達が必須だし、一方通行ではなく双方向でないとこまる。

そして当然ながら、情報変換機能も必要だ。形のない需要情報、顧客の「ニーズ」を、具体的な製品の形に変換するのは、誰か。むろん、設計部門だろう。では、あえて質問するが、あなたの会社の設計能力は、どれほどの水準だろうか?

わたしが見聞きしてきた限り、日本企業では、詳細設計は今でも一流だ。世界的に遜色ないレベルだと言える。

しかし、はっきり言って、基本設計は二流だ。なぜか。顧客の要求事項に個別に対応し続けることが、設計だと思い込んでいるからだ。一流の設計には、設計思想がいる。そして標準化への強い意思がなければならない。まして超一流の設計とは、新しい製品カテゴリーを創造する能力である。

技術カンファレンスなどを見ても、設計のツール論はたくさんあるが、設計論自体は内容が乏しい。設計を導くガイディング・プリンシプルが足りない。


  • 製造業の本当の問題は、工場の外にある

しかし設計機能よりも、もっと問題な部分がある。それはマーケティング・営業である。これは需要情報をインプットし集約するとともに、需要喚起のための製品情報をアウトプットし、顧客を誘引する機能だ。生産システムのメインのアウトプットは製品それ自体だが、同時に製品に伴う情報も、アウトプットし続ける。この情報アウトプットを上手に制御しつつ、インプットの需要情報にうまくフィードバックする仕事こそ、営業に他ならない。

マーケティングとはどちらかというと中枢系の機能で、営業セールスは末端組織の力仕事という区分が、西洋社会にはある。しかし、日本企業ではこの区分が明確でない。マーケティング機能自体が、一部のB2C大企業以外では、とても乏しい。

マーケティング・営業の仕事とは、煎じ詰めれば「いかに高く売るか」を考える仕事だ。しかし、日本企業の多くは奇妙なプル型(下請型?)体質がしみこんでいて、「いかに安く売るか」「顧客にどれだけ従うか」が、思考のモノサシになっている。これでは情報の一方通行である。よい基本設計は、すぐれたマーケティングとワンセットでなければならない。末端組織の一人ひとりの営業マンは足で稼ぎ、エンジニアは詳細設計で汗をかいて努力している。だが肝心の、中枢機能がつながっていないのだ。

こうした状況は、全体システムを統合する経営レベルの問題である。組織図をつくり、KPI・KGIを与えて目標管理で皆をドライブするが、サイロ化した部署の間で、情報の流れがどうなっているのか無頓着でいる。

これらの問題は、すべて工場の外で起きている。日本の製造業を再生したかったら、設計、マーケティング、そして経営者の思考習慣を、何とかしなければならない。

もちろん工場の刷新は、必要だ。デジタル化だって、省人化だって、待ったなしだろう。でも工場のスマート化は、製造業の活性化にとって必要条件だが、十分条件ではない。製造現場にどれだけIoTセンサーを詰め込んだって、スマート製造は実現しないのである。


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by Tomoichi_Sato | 2025-12-10 17:36 | E3 組織・経営・戦略論 | Comments(0)
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