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モダンPMへの誘い 〜 一本道プロジェクトとガントチャートの基本を考える


  • PERT/CPMと一本道プロジェクト

「PERT/CPMのスケジューリング手法なんて、現実にはプロジェクト・マネジメントに使えない」という声がときどき出る。その一つのケースは、プロジェクトが一本道のアクティビティ系列から成り立っていて、並列作業が存在しない場合だ(「モダンPMへの誘い 〜 クリティカル・パス法は役に立つのか?」 参照)。プロジェクト全てがクリティカル・パスになる訳だから、たしかにPERT/CPMは使えない。というか、そもそも持ち出す意味が無い。
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一本道のプロジェクトでは、全体期間は各アクティビティの期間の合計に等しい。単純である。そして遂行段階に入った後も、完成予定日は、残りのアクティビティ期間の合計だから計算は自明だ。

一本道のプロジェクトは、たとえば複数のマイルストーン(とくにゲート審査)で区切られているような「ガバナンスのよく効いた」ケースで、ときどき見かける。また一つの開発チームで、複数のイテレーションを繰り返すアジャイル開発プロジェクトなども、その範疇に入るだろう。

さらにいうと、なぜプロジェクトを複数のアクティビティに区切る必要があるのか、という疑問も浮かんでくるかもしれない。最初から、たった1本の線だけ引いておけば、いいではないか? そもそも、ガントチャートにおけるアクティビティの線(矢羽根)の区切りとは、どういう意味があるのか?


  • ガントチャートの基本 

ガントチャートはプロジェクト・マスタ・スケジュールを表現する、基本的ツールである。その割に、それをどう作るのかについて、ちゃんと教えてくれる機会が少ないように感じる。ExcelとかPowerPointで、みな我流に描いている。まあ矢羽根のスタイルとかフォント・色使いとかは、個性があっていいと思う。

だがガントチャートの作成において、アクティビティの矢羽根を描くとき、どこで、どんな単位に区切るべきなのか。そこには、ある程度共通に理解すべきルールがある。(もちろんここでは、どこか別のところで、事前にActivityリストだとかWBS辞書だとかが準備されていないケースを考える。つまり、どんな作業があるかを考えながら、白紙にガントチャートを描くような場合である)

たとえば、中間で重要な判断が入るとき、普通はその前後でアクティビティを分ける。重要な判断とは、たとえばデザインレビューやゲート審査などである。これはたいていの人がそうしているだろう。

また重要なマイルストーンをはさむときも、ふつうはアクティビティを区切る。たとえば大事な中間成果物を出すとき、逆になんらかの大切な中間インプットが入るとき、などがマイルストーンだ。第3者の関わるイベント=社外発表なども、マイルストーンかもしれない。こうした際も、矢羽根は区切るべきだ。マイルストーンの予定が変わると、アクティビティの日程もひきずられるからである。

しかしもう一つ、あまり十分認識されていないルールがある。割り当てるべきリソース(担当者や担当グループ)が変わるときである。このようなときには、アクティビティを分ける。

ガントチャートは社内や顧客・外注先とのコミュニケーション・ツールである。そして社内や外注先は、主に人の配員予定という視点で、それを見る。誰がいつからいつまで、その仕事にアサインされるのか。だからいろんなリソースがゴチャゴチャに割り当てられた矢羽根があると、混乱するのである。

もう少し言うと、ガントチャートは本来、リソースの山積みグラフとワンセットで完成する。まあそこまで作っている組織は、少ないかもしれないが。


  • こんなガントチャートを描いてはいけない

繰り返すが、別種のリソースが別種の成果物や完了状態を目指して働くアクティビティは、異なる線(矢羽根)として描く。たとえ同じタイミングに始まり、完了時期もほぼ同じとしても、並行する2本の線とする。なぜなら終われるタイミングが、異なるかもしれないからだ。

並行する2本のアクティビティの片方が5週間、もう一方が4週間かかると見込まれるとしよう。どちらも同じ先行アクティビティと後続アクティビティに囲まれている。ただし、従事する人のグループは別だとする。このような場合、本当は4週間の実働期間の実線と、1週の余裕日数(フロート日数)を表示すべきである(フロートはよく、点線で描かれる)。

だが、2本目のアクティビティも、同じ5週間の長さで引いてしまう例をしばしば見かける。もしかりに2本目の作業が4週で終わっても、後続の仕事もあるのだから、1週間だけそのグループをリリースするのは現実的ではない、と考えたりする。さらにいうと、余計に1週かけて「品質を上げる」ことをしたりするケースも、案外多い。とくに設計的なアクティビティでは、工数をかけようと思えば、いくらでもかけられる。

こういう事をプロマネはよく知っているから、同じ5週にしたくなるのだろう。そして、だとすると線を2本引くのではなく、1本にまとめても良いじゃないか、との発想になる。かくて、複数のゲートやマイルストーンをこえて進むプロジェクトは、「一本道」型になりがちになるのだ。
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だが、できればそれは、やめたほうがいい。余裕日数(フロート)がある場合は、ちゃんと表示する。なぜか。それは、フロートがチームの余力を示すからだ。そして、(おそらくこのシリーズの後の方で触れると思うが)フロートのあるアクティビティというのは、プロジェクトにとって一種の『有用な資源』と見なせるからである。


  • そもそも、プロジェクト・スケジューリングとは

プロジェクト・スケジューリングの意義は何だろうか? それは、計画段階では、プロジェクトの全体期間(工期)と納期をコミットするためにある。そして、必要なリソースの工数と費用見積のベースとするためである。また遂行段階では、プロジェクトの完成予定日を推測するためにある。

PERT/CPMという技術は、プロジェクトの役務範囲=スコープが、ある程度明確に決まっていて、そこから作業ボリュームとスケジュールを導き出すときに使用する。スコープ決定→スケジュール導出、という順番である。

逆に言うと、先にチーム体制と全体期間が決まっていて、そこから優先順位を動的に決めながらスコープを調整していくケース(アジャイル開発型のプロジェクトがその典型だ)では使えないし、不要だ。

じゃあ納期だけが先に決まっていて、そこから逆算で無理矢理にアクティビティの期間と完了日を決めていく、「気合いと根性」型のガントチャートは? むろん、これもPERT/CPMの守備範囲外である。くどいようだ、スコープ決定→スケジュール導出、というスキームを満たさない場合の、マネジメント用ツールではないのだ。

PERT/CPMは、ガントチャートにおける基本的なアクティビティの区分けを踏まえることが、正しい使用法の前提だ。そして、万能の道具ではない。どんな道具も利点と限界をわきまえて、使うべきである。しかし「PERT/CPMなんか使えない」という声が世間で聞こえるとき、そもそもそれを使うべきシチュエーションなのかどうかは、理解した方が良い。どんな道具だって、「無理が通れば道理が引っ込む」ような職場では、役に立つはずがないからだ。


<関連エントリ>
「モダンPMへの誘い 〜 クリティカル・パス法は役に立つのか?」 https://brevis.exblog.jp/33567190/ (2025-03-31)
「モダンPMへの誘い 〜 アクティビティ期間にばらつきがある場合に使うべき推定法とは」 https://brevis.exblog.jp/33602646/ (2025-04-27)



by Tomoichi_Sato | 2025-06-18 21:19 | B3 プロジェクト・スケジューリング | Comments(2)
Commented at 2025-06-23 16:06
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Tomoichi_Sato at 2025-06-29 10:02
ご指摘ありがとうございます。ケアレスミスでした。訂正しました。

佐藤知一
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