1.はじめに
細谷功さんの本とは、「地頭力を鍛える」が最初の出会いでした。
それ以来、本書はずっと前から気になっていました。
というのも、書店で新書のコーナーでは平積みされて見かけることが多く、帯にも以下のような問題が表示されています。
「問題」以下のものの共通点はなんでしょう?
・目覚まし時計 ・懐中電灯 ・旅行代理店 ・カメラ ・お金
この正解が知りたい人は、ぜひ購入して49ページを確認いただければと思います。
以下では、特に印象的だった部分を10点に絞って引用して紹介します。
2.内容
(1)具体と抽象
- 具体病というのは思考停止した状態で、このような人の仕事は真っ先に機械に置き換えられていくことになる。指示が全て具体的になっていれば、それは機械でも実行可能だから。AIやロボットが次々と人間のやっていることを代替していく時代、これから必要になってくるのは、具体的な事象を抽象化して応用を利かせることで「言われていない」ことまでを能動的に実施できる人材。
- 抽象度が上がれば上がるほど一般的になり、具体性が上がれば上がるほど特殊な個別の事象になっていく。このために抽象度が高い表現であればあるほどカバーする範囲が広くなり、知的対象の範囲が広がっていくことになる。つまり、抽象度が高くなればなるほど言葉の汎用性が上がり、1つの言葉で表現できる対象の数が増えていく。
- 物事の優先順位を常に意識している人は、抽象度の高い視点で物事を見ている可能性が高く、逆に「全て大事」となかなか優先順位がつけられず、「何も捨てられない」と考える人は具体的な世界にどっぷりと浸っている可能性がある。このことは、戦略的な思考に抽象化の視点が不可欠であることを示している。戦略的に考えるための重要な視点が「優先順位をつけること」であり、それを基にして「捨てること」だから。
(2)抽象化とは? 具体化とは?
- 「一言で表現する」というのは、必ずその場での目的によって異なる。目的を考えるというのは抽象化と表裏一体であることを意味する。抽象化とは「都合の良いように切り取ること」。ここでいう「都合の良い」というのがその時々の目的にマッチしたということを意味する。
- 特定の特徴だけを抜き出すことが抽象化であるとすれば、別の言い方をすれば、抽象化とは数多い情報の中から特定のものを抜き出す反面で、逆に不要なものを捨てるということ。つまり、抽象と捨象は表裏一体の関係。したがって、抽象の世界は必然的に「全てをありのままにとらえる」リアリティからは遠くなる。具体派の人はリアリティにこだわることが多いために、抽象化することを良心の呵責によってできないことが多い。
- 抽象化が共通点を見つけることだとすれば、具体化は相違点を明確にしていくこと。このことは後述するコミュニケーションギャップの大きな要因。常に共通点や一般則を探しにいこうとする「抽象派」と、相違点を探しにいこうとする「具体派」の対立も永遠の課題と言える。違いを探しにいこうとするというのは、自分やその属する世界を特殊だと思うマインドセットと表裏一体のもの。
(3)アナロジーの応用 具体と抽象の使用上の注意点
- 抽象レベルの「幹」のメッセージを出したい人は、「極論で言い切る」という手法を取る。ところが、それを見た具体派の人たちは、切り捨てられた枝葉が気になって仕方ない。そこで「こんな葉っぱもこんな枝もある」と反論するが、当の言い切った側の人は「そんなことはわかった上で切り捨てている」。従って「都合の悪いために切り捨てられた枝葉」を大事に思う人からは常に反論が出る。
- 対極にある軸をちょうど真ん中の「0」の点を折り目にして、両端を合わせる形で図の真ん中のように「折り曲げて」みる。そうすると、両極端だった「成功」と「失敗」が同じ場所で重なり、その対極が「どちらでもない」という構図になる。このように物事を見ると、全く違った世界観が現れる。
- 管理職が部下に仕事を任せていくときに、「全て自分でやりたい人」はなかなか部下に仕事を任せることができないというのは、「仕事の質に自分なりのこだわりを持つ職人気質のラーメン屋」は間違っても自分の味をカップラーメンにするなどということはしないであろうという点で、これらの構図は「ほぼ同じ」。
- 「お前は間違っている」とか「この意見のほうが正しい」といった「正しい」「間違い」の議論を始める前に、そもそもそれはどういう状況で起こっているのか、それを語っている人はどんなことを狙ってその行動を取ったのか、その時にどんな制約状況があったのかといったことを十分に確認する。それをしないまま行われる議論は、そもそも議論にすらなっておらず、「自分の正しさを証明する」ためのものでしかないということを自覚すれば、世の中の無用な軋轢は減らせるのではないかと思う。
3.教訓
担当者として日々手を動かしている人が、その業務に最も詳しいのは間違いありません。だからこそ、細かな違いにも敏感になり、些細な差異が気になったり、入口から出口までの全プロセスを余さず報告したくなったりします。
しかし、受け取り手が同じレベルの情報量を求めているとは限りません。抽象度の高いタイプは「結局、何が言いたいの?」と要点を知りたがり、具体的なタイプは「そんなに簡単にまとめられるものではない」と感じます。これは職場で非常によく起こるすれ違いです。
具体も抽象もどちらも大切であり、その場で求められている粒度を柔軟に切り替えられることが理想だと思います(もちろん簡単ではありませんが)。
このブログではテキストのみで説明していますが、本書には「横の世界と縦の世界」を三角形の図で示した解説や、上司と部下の関係をリレーのバトンパスに例えた図など、視覚的な補足が多く盛り込まれています。文章と図表を行き来しながら読むことで理解が一段と深まるため、ぜひ実物を手に取って読んでみることをおすすめします。
