本記事ではデジタル指標(ストリーミング・MV再生回数、フル配信ダウンロード・着うた売上)で楽曲人気を得ているアーティストの歴代ランキングを作成したらどのような結果になり得るのかをシミュレーションし、一例として提示する。先に結果を示すと、そのTOP50は以下のとおりとなった。

歴代デジタル楽曲人気指標
本記事で用いている各指標の歴代ランキングは以下記事群で示している。
歴代アーティスト・トータル・ダウンロード売上ランキング (単曲フル配信)
本記事の前提
歴代ヒットランキングとは、その名のとおり複数年以上に渡って網羅的に各種ヒットデータを集計し序列化することで、分かりやすく歴代人気コンテンツを上位表示したランキングを指す。しかし実際には、網羅性の棄損などによる欠陥を抱えたランキングがこれを自称する不適切なケースが後を絶たない。
その具体例として特に多いのが、CD売上データを過剰に重視して歴代ランキングを作成しているケースである。この結果として、CD市場が全盛期を迎えていた90年代の大ヒット曲や、いわゆるAKB商法によってCD大量販売を行っているAKBグループの楽曲で上位が偏ってしまい、歴代ランキングと自称しながらも多様な年代やジャンルの大ヒット曲が網羅されていない不適切なケースが粗製濫造されている。
他方でデジタル指標(ダウンロード売上やストリーミング再生回数)の記録にスポットが当たる機会は、日本音楽業界が十分なデータ集計を怠ってきたこともあり、CD売上と比較すると決して多くない。さらに、CD売上記録で有名な90年代前後の楽曲は、デジタル解禁が十分にされていないケースが散見される。せっかく記録を紹介することによりユーザーに興味を持ってもらえても、聴いてもらうためのハードルが高いという、記録紹介による需要喚起と実際の楽曲供給体制の間にミスマッチが生じている状況である。
この「CD偏重問題」の詳細は以下記事で説明している。
この問題意識を踏まえ、本記事ではデジタル指標で多くの楽曲人気を獲得しているアーティストに重点的に光を当てることとする。
なおCD売上(フィジカルセールス)は2010年までの歴代シングルセールスと2005年までの歴代アルバムセールスであれば歴代アーティスト・トータル・楽曲人気ランキングの構成要素として使用可能という整理のもと、当ブログではそれを考慮した総合ランキングを別途以下記事にて作成し、一例として提示している。
この記事を見ていただいても分かるとおり、歴代アーティストランキングにおいて留意しなければならないのは、活動歴が長いアーティストが有利になることである。当然ながらアーティスト活動は本人に意志がある限り長期にわたり継続する。よって、直近で活躍するようになったアーティストが、タイムリーに歴代アーティストランキング上位に顔を出すことは困難である。実際に、上記で作成したランキングの最上位圏は、90年代以前にデビューした高CD売上アーティストで占められている。
本記事で示す歴代アーティスト・トータル・デジタルランキングは、2000年代以降に活躍したアーティストに重点的に光を当てる役割も担っている。
ランキング作成方法
基本的に『歴代デジタルヒット曲ランキング』(以下記事参照)に準じている。
そのうえで以下数点を再掲・補足するが、マニアックな内容も含むため、読み飛ばしていただいても構わない。
- 各指標間の換算式は、「フル配信10万ダウンロード=着うた50万ダウンロード=ストリーミング・MV5,000万再生」としている。根拠は日本レコード協会(RIAJ)の各指標認定基準の下限値である。各指標においてこの式で挙げたボーダーを超えて初めて日本レコード協会から認定が授与されることを踏まえれば、これがヒットしているか否かのボーダーであり、同時に各指標間の換算目安とも言い換えられる。
- フル配信ダウンロード・着うた売上はRIAJが公表している認定数を集計している。このダウンロード指標はこれまでTV番組等が作成する歴代ランキングにおいてしばしば無視されてきた。その理由はダウンロード市場全盛当時国内で有名なヒットチャートだったオリコンランキングがこれを無視してダウンロードランキングを作成しなかったからである。この問題は以下記事に纏めている。
この問題により、例えばTBSのTV番組『歌のゴールデンヒット』がオリコンランキングを基に作成し2019年に公表した「昭和・平成の歴代歌姫ベスト100」や「昭和・平成・令和の歴代歌王ベスト100」では、ダウンロード市場全盛期に大人気となっていたアーティスト(西野カナ、GReeeeN等)が軒並みTOP100にランクインしておらず、歴代ランキングを名乗るに相応しくないと言うに十分過ぎる結果となっていた。このように、特定の時代の動向が丸々抜け落ちることのないように各時代の主要指標を網羅的に集計することは歴代ランキングを作成するうえで必須となる。
- MV再生回数はYouTubeで視聴回数3,000万以上を記録している公式MVをアーティストごとに集計した(100万未満切り捨て)。ただし国外アーティストに関しては、YouTubeチャートで記録された日本国内累計再生回数をベースとした推定値を使用する。詳細は当ブログ記事『YouTube各種再生回数・チャート解説』参照。
結果の妥当性の確認
TOP50にランクインしたアーティストをデビュー年別に整理した表は以下のとおり。

この表から、ランクインしたアーティストが特定の世代に大きくは偏っていないことを確認でき、事前に企図したとおりに、2000年代に活躍した主なアーティストを万遍なく抽出できていると言える。歴代ランキングとしての結果の妥当性が確認できたところで、以下より上位6組のアーティストをピックアップして解説する。
TOP6アーティスト解説
1位 Mrs. GREEN APPLE
1位はMrs. GREEN APPLE。ボーカル大森元貴を中心に結成され2015年にデビューしたバンドである。各指標の累計はフル配信170万ダウンロード、ストリーミング114.3億再生、MV25.8億再生を記録しており、このうちストリーミング再生回数は歴代最多記録である。これらをポイント化し合計すればセールス2,974万相当となる。その指標別構成内訳を割合表示した円グラフは以下のとおり。

Mrs. GREEN APPLEはMV・ストリーミング市場全盛期の2020年代中盤に絶頂期を迎えたため、楽曲人気を可視化する構成要素はストリーミング再生回数が大半を占めていることが特徴である。ダウンロード市場はその時期既に市場全盛期を過ぎていたため、ダウンロード売上のポイント割合は小さめである。
自身最多ポイント記録曲は「青と夏」。爽快なバンドサウンドで奏でられたアッパーな夏うたで、映画『青夏 きみに恋した30日』主題歌として書き下ろされた。楽曲が持つ瑞々しさは青春を強く感じさせるものであり、特に学生からの支持が集まったことで、新たな夏うたの定番曲の座を獲得。各指標の累計はストリーミング9.0億再生、MV2.0億再生、フル配信25万ダウンロードを記録している。
Mrs. GREEN APPLEの楽曲人気データは以下別記事で詳述している。
2位 米津玄師
2位は米津玄師。2013年にデビューした男性ソロシンガーソングライターである。各指標のセールス及び再生回数はフル配信1,000万ダウンロード、ストリーミング43.8億再生、MV51.4億再生を記録しており、このうちMV再生回数は国内アーティスト史上最多記録である。これらをポイント化し合計すればセールス2,904万相当となる。その指標別構成内訳を割合表示した円グラフは以下のとおり。

米津玄師は、ダウンロード市場が全盛期終盤を迎え、代わってMV市場が全盛期に突入した2010年代終盤にブレイクしたため、楽曲人気を可視化する構成要素はダウンロード売上・MV再生回数でおよそ2/3を占めていることが特徴である。ストリーミング市場への楽曲解禁は2020年からとやや遅かったが、直近のヒット曲はストリーミングをメインとしたポイント獲得にシフトしている。
自身最多ポイント記録曲は「Lemon」。他界した祖父への想いをベースに「死」をテーマに制作された本曲は、タイアップ先のドラマ『アンナチュラル』の内容ともリンクしていたことや、2018年末の紅白歌合戦での披露が大きな話題となったことで歴史的なヒットとなり、米津玄師の名を全国に知らしめた。各指標の累計はフル配信300万ダウンロード、MV9.5億再生、ストリーミング4.4億再生を記録している。
米津玄師の楽曲人気データは以下別記事で詳述している。
3位 Official髭男dism
3位はOfficial髭男dism。ボーカル藤原聡を中心に結成され2018年にデビューしたバンドである。各指標のセールス及び再生回数はストリーミング100.0億再生、MV22.4億再生、フル配信400万ダウンロードを記録している。これらをポイント化し合計すればセールス2,848万相当となる。その指標別構成内訳を割合表示した円グラフは以下のとおり。

Official髭男dismはMV・ストリーミング市場が全盛期に突入した2020年前後にブレイクしたため、楽曲人気を可視化する構成要素はMV・ストリーミング再生回数が大半を占めていることが特徴である。ダウンロード市場は全盛期を終えようとしていたタイミングであったが、Mrs. GREEN APPLEやYOASOBIと比較すると、ブレイク時期が早かった分ダウンロード売上のポイント割合が大きくなっている。
自身最多ポイント記録曲は「Pretender」。本曲は映画『コンフィデンスマンJP -ロマンス編-』主題歌として2019年に発売された切ないラブソングで、印象的な韻を踏むメロディーや共感性の高い歌詞が支持されたことや、映画が興行収入29億円を記録する人気となったことなどから特大ヒットとなった。各指標の累計はストリーミング10.0億再生、MV6.0億再生、フル配信100万ダウンロードを記録している。
Official髭男dismの楽曲人気データは以下別記事で詳述している。
4位 YOASOBI
4位はYOASOBI。コンポーザーのAyaseとボーカルのikura(幾田りら)により結成され2019年にデビューしたユニットである。各指標のセールス及び再生回数はフル配信300万ダウンロード、ストリーミング81.9億再生、MV35.3億再生を記録している。これらをポイント化し合計すればセールス2,644万相当となる。その指標別構成内訳を割合表示した円グラフは以下のとおり。

YOASOBIは、MV市場が全盛期を迎え、ストリーミング市場も全盛期に突入した2020年前半にブレイクしたため、楽曲人気を可視化する構成要素はMV・ストリーミング再生回数が大半を占めていることが特徴である。ダウンロード市場はその時期既に市場全盛期を過ぎていたため、ダウンロード売上のポイント割合は小さめだが、Mrs. GREEN APPLEと比較すると、ブレイク時期が早かった分その割合が大きくなっている。
自身最多ポイント記録曲は「夜に駆ける」。YOASOBIは小説を音楽で表現することを特徴としており、本曲はネット小説『タナトスの誘惑』を原作としている。アニメ仕立てのMVや小説を踏まえた歌詞が視聴者の想像を掻き立てる形で人気を拡大し、中毒性のある速いテンポのリズムも支持された。各指標の累計はストリーミング12.3億再生、MV2.8億再生、フル配信75万ダウンロードを記録している。
YOASOBIの楽曲人気データは以下別記事で詳述している。
5位 back number
5位はback number。ボーカル清水依与吏を中心に結成され2011年にデビューしたバンドである。各指標のセールス及び再生回数はフル配信705万ダウンロード、ストリーミング78.5億再生、MV15.2億再生を記録している。これらをポイント化し合計すればセールス2,581万相当となる。その指標別構成内訳を割合表示した円グラフは以下のとおり。

back numberはダウンロード市場末期の2010年代中盤にブレイクしたため、楽曲人気を可視化する構成要素に占めるダウンロード売上の割合が比較的大きいが、2020年代以降もさらに人気を拡大させたことで、徐々にストリーミング・MV再生回数の占める割合が拡大していることが特徴である。
自身最多ポイント記録曲は「高嶺の花子さん」。片想いをしている相手から見たら自分は「知人B」でしかないなどと自虐する男性主人公の心情を描いたユニークな歌詞などが徐々に人気を広げた。各指標の累計はストリーミング7.0億再生、MV1.5億再生、フル配信75万ダウンロードを記録している。
back numberの楽曲人気データは以下別記事で詳述している。
6位 EXILE
6位はEXILE。2001年にデビューした男性ダンス&ボーカルグループである。各指標のセールス及び再生回数はフル配信2,065万ダウンロード、着うた1,775万ダウンロード、ストリーミング4.0億再生、MV1.0億再生を記録しており、このうちダウンロード売上は歴代最多記録である。これらをポイント化し合計すればセールス2,520万相当となる。その指標別構成内訳を割合表示した円グラフは以下のとおり。

EXILEはダウンロード市場全盛期の2000年代後半~2010年代前半に絶頂期を迎えていたため、楽曲人気を可視化する構成要素はダウンロード売上が大半を占めていることが特徴である。近年は活動ペースが緩やかになっていることから、MV・ストリーミングのポイント割合は小さめである。
自身最多ポイント記録曲は「Ti Amo」。松尾潔とJin Nakamuraが手掛けたバラードナンバーである。女性目線の報われない恋を描いた歌詞の切なさや格調高く歌い上げるATSUSHIとTAKAHIROのボーカルが支持され、フル配信200万ダウンロード、着うた100万ダウンロード、ストリーミング5,000万再生を記録する特大ヒットとなり、2008年の日本レコード大賞も受賞した。
EXILEの楽曲人気データは以下別記事で詳述している。
7位以下
7位以下、TOP50にランクインしたアーティストのうち、個別解説記事を作成しているアーティストに関しては、そのリンクを以下にあいうえお順で並べた。
三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE
まとめ
以上が歴代アーティスト・トータル・デジタルランキングを作成してみた結果と上位6組のアーティストの簡単な解説となる。
なお、ここで作成した歴代ランキングは、売上・再生回数・RIAJ認定などの客観的指標に基づいたものであるが、それらを纏めてランキング化するうえでは、どうしても作成者である私の考えが介入せざるを得ない。私にRIAJや各種音楽番組・ヒットチャート作成機関が持っているような権威はない。よってここで示したランキングが絶対に正しいと主張するつもりは毛頭ない。
全ての時代にヒット曲と人気アーティストは多様に存在する。それが分かる歴代ランキング作成方法になっているのであれば、その細かい順位結果はどうなっていても構わない。ヒットチャートは分かりやすくそれらに光を当てることができる重要な存在である。今後もたくさんの素晴らしい楽曲とアーティストに光が当たっていくことを願うばかりである。