折り戸に付いている
丸い取っ手を手前に引くと
そこにはたくさんのスーツが
吊るされているはずだった。
昨日までは。
これまで歩んできた道のりで
知らぬ間にやってきた
成長という傷が
スーツには刻まれている。
けなされ
褒められ
絶望して
期待しながら
その傷は刻まれていった。
折り戸の向こうには
たくさんのスーツではなく
上品な回転扉が待っていた。
綺麗なガラス窓が全面に施されたそれは
入口が一つあって
出口はなかった。
中央には筒状の太い軸があり
これもガラスで作られていた。
その筒の中は
同じ大きさの色とりどりの風船で
満たされていた。
風船は下から上へ
ゆっくり移動していた。
僕はスーツを必要としていた。
それを着用することで
あらゆるものに耐えてきた。
スーツには
長い年月をかけて得てきた
生きる術が蓄積されている。
部屋の窓の外では
大勢のスーツ姿が
巣へ戻るアリのように
駅へ向かっていた。
急がないと
いつもの急行に間に合わない。
回転扉だか風船だか知らないが
スーツを取り戻さないといけない。
折り戸をくぐって
クローゼットの中に入った。
回転扉の入口から
その中を見渡した。
スーツがある気配は
全くなかった。
風船は
秋の月のように
のんびりと鮮やかに
軸の中を昇っていた。
僕はそんなのんきな風船を
焦りと憎しみを込めて
睨みつけていた。
気が遠くなるほど
睨みつけていた。
間もなく
赤い風船が
一つずつ弾けだした。
弾けるたびに
小さな何かの映像が
ぼんやりと目の前に現れた。
それは
傷つけられている
僕の映像だった。
いろんな時代の
僕の映像だった。
その映像は
周りの風船と一緒に
ゆっくり昇っていく。
次から次へ
下から上へと
昇っていく。
しばらくすると
青い風船が弾けだした。
同じように
小さな映像が現れた。
途方にくれている
僕の映像だった。
緑の風船が弾けると
小さなメロディーが流れ出し
幼い頃の僕が映し出された。
無邪気で何の曇りもない。
昇っていく風船は
途切れることがなかった。
それらは次々と弾け
僕の映像で
僕を照らし続けた。
その映像には
これまでに僕が体験した
あらゆる感情が
含まれていた。
次第に
僕の唇は振るえ
頬を温かいものが
伝っていった。
自分は
何者なのだろうか。
自分は
どうしてここに
いるのだろうか。
何を求めて
いるのだろうか。
それは
僕が見つけないといけない。
それは
僕が感じないといけない。
僕は
急行に乗ることを
やめた。
丸い取っ手を手前に引くと
そこにはたくさんのスーツが
吊るされているはずだった。
昨日までは。
これまで歩んできた道のりで
知らぬ間にやってきた
成長という傷が
スーツには刻まれている。
けなされ
褒められ
絶望して
期待しながら
その傷は刻まれていった。
折り戸の向こうには
たくさんのスーツではなく
上品な回転扉が待っていた。
綺麗なガラス窓が全面に施されたそれは
入口が一つあって
出口はなかった。
中央には筒状の太い軸があり
これもガラスで作られていた。
その筒の中は
同じ大きさの色とりどりの風船で
満たされていた。
風船は下から上へ
ゆっくり移動していた。
僕はスーツを必要としていた。
それを着用することで
あらゆるものに耐えてきた。
スーツには
長い年月をかけて得てきた
生きる術が蓄積されている。
部屋の窓の外では
大勢のスーツ姿が
巣へ戻るアリのように
駅へ向かっていた。
急がないと
いつもの急行に間に合わない。
回転扉だか風船だか知らないが
スーツを取り戻さないといけない。
折り戸をくぐって
クローゼットの中に入った。
回転扉の入口から
その中を見渡した。
スーツがある気配は
全くなかった。
風船は
秋の月のように
のんびりと鮮やかに
軸の中を昇っていた。
僕はそんなのんきな風船を
焦りと憎しみを込めて
睨みつけていた。
気が遠くなるほど
睨みつけていた。
間もなく
赤い風船が
一つずつ弾けだした。
弾けるたびに
小さな何かの映像が
ぼんやりと目の前に現れた。
それは
傷つけられている
僕の映像だった。
いろんな時代の
僕の映像だった。
その映像は
周りの風船と一緒に
ゆっくり昇っていく。
次から次へ
下から上へと
昇っていく。
しばらくすると
青い風船が弾けだした。
同じように
小さな映像が現れた。
途方にくれている
僕の映像だった。
緑の風船が弾けると
小さなメロディーが流れ出し
幼い頃の僕が映し出された。
無邪気で何の曇りもない。
昇っていく風船は
途切れることがなかった。
それらは次々と弾け
僕の映像で
僕を照らし続けた。
その映像には
これまでに僕が体験した
あらゆる感情が
含まれていた。
次第に
僕の唇は振るえ
頬を温かいものが
伝っていった。
自分は
何者なのだろうか。
自分は
どうしてここに
いるのだろうか。
何を求めて
いるのだろうか。
それは
僕が見つけないといけない。
それは
僕が感じないといけない。
僕は
急行に乗ることを
やめた。
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by windproof74
| 2007-09-25 01:31
| 散文

