軌跡と覚書

神学と文学を追いかけて

福音主義終末論についての覚書(1)イスラエル論

前書き

  • キリスト教神学の終末論は以下のように二分されて論じられることが多いです。
    1. 個人的終末論(personal eschatology)→個々人の未来や死、中間状態、復活、裁きなどを扱う。
    2. 宇宙的終末論(cosmic eschatology)→キリストの再臨、千年王国、最後の裁き、新しい天と新しい地などを扱う。「一般的(general)終末論」や*1、「預言的(prophetic)終末論」と呼ばれることもある*2
  • このシリーズでは、上記の二区分でいえば「宇宙的終末論」に焦点を絞り、テーマ別に諸見解を整理していきたいと思います。
    1. イスラエルと教会の関係に基づく諸見解(←今回)
    2. 聖書預言の成就のタイミングに基づく諸見解
    3. キリストの再臨と千年王国の関係に基づく諸見解
    4. キリストが聖徒を空中に引き上げるタイミングに基づく諸見解
    5. 新しい天と新しい地の性質に着目した諸見解
  • 各見解は出来る限り支持者による文献に基づいて整理し、聖書的・神学的根拠を提示しています。ただし必ずしも、各見解の支持者がすべての根拠に同意しているとは限らないことにご留意ください。
  • 参考資料は筆者が所持している、またはアクセスしたことのあるものに限られているので、テーマや見解によって文献量にバラつきがあることはご容赦ください。
  • このシリーズのノートは、各立場がどういう前提や条件で出力された結果なのかを知ることで、自分と異なる立場も出来る限り理解していきたいと考え、整理してきたものです。これからのノートをご覧になる方が、各見解を概観する際の一助になれば幸いです。

目次

※特に断りがない限り、聖書引用は以下によります。聖書 新改訳2017 ©2017 新日本聖書刊行会

1.イスラエルと教会の関係に基づく諸見解

総論

(1)基本的な前提
  • 旧約聖書において、神はイスラエルと契約を結び、民族の繁栄・約束の地の所有・王国の永続的な確立といった約束を与えました。
  • 神とイスラエルとの契約の約束がイエス・キリストおよび教会とどのように関連づけられるかという問いは、終末論に影響を及ぼします。
  • ここで扱う諸見解は終末論の範疇を超えた神学的枠組みであり、聖書神学*3、救済論、教会論、イスラエル論*4などとも関連しています。しかし、終末論にも深く関連しているため、終末論の諸見解として取り上げました。
(2)各見解における共通見解
  • 救いの土台は一貫してキリストにあると理解されます。
  • 旧約以降の預言と約束はキリストを通して成就すると理解されます。(※見解による相違点は、その成就の範囲と、将来における国家的・民族的イスラエルの役割の見方にあります。)
  • 将来イスラエル民族が大挙して救われること(ロマ11:25–26参照)は、一般的に、どちらの見解でも期待されます。

1−1.Fulfillment Theology(成就神学)/Supersessionism(代替主義)/Replacement Theology(置換神学)

(1)定義
  • ユダヤ人と異邦人双方のキリスト者から成る教会を、旧約でイスラエルに与えられた祝福や約束を継承する存在とみなす見解のことです。
  • この見解は神の民としての国家的イスラエルが教会に取って代わられた、またイスラエルへの祝福・約束の受け手が教会に取って代わられたという点を強調してsupersessionism*5(代替主義)またはreplacement theology(置換神学)と呼ばれています。
  • イスラエルへの祝福・約束がキリストを通し、異邦人も加えられた神の民において成就しているという点を強調し、fulfillment theology(成就神学)という積極的な呼称が使われる場合もあります。
(2)主な特徴
  • 神の契約は、一貫した救いの計画が展開していく上で結ばれたものです。同じ計画に位置づけられているイスラエルと教会は本質的に区別されません。
  • キリストの初臨(特に十字架上の死と復活)を重視し、旧約で与えられた主な祝福や約束が初臨において、様々な形で成就したと考えます。
  • 土地的・民族的約束は、キリストにあって普遍的・霊的祝福として再定義されるものです。
  • 国家的・民族的イスラエルは救いの計画における役割と使命を果たしてきました。それらの役割と使命は今や、キリストの教会に継承されています。よって、教会を「新しいイスラエル」または「真のイスラエル」と表現することができます。
  • イスラエルの回復に関する預言は教会における霊的現実として実現しており、最終的には新しい天と新しい地にて完成します。
(3)聖書的・神学的根拠の例
  • 創世記12:1–3; 15:13–21; 17:7–8などにあるアブラハム契約の祝福は、キリストにあって全世界的な祝福へ拡張されたと考えられます(マタ5:5; ロマ4:13など参照)。
  • ガラテヤ3:7–29により、アブラハムの子孫は民族性ではなく信仰の有無による概念です。よって、アブラハム契約の約束は、真のアブラハムの子孫である信仰者全般に継承されると考えられます。
  • ガラテヤ6:16で言及されている「神のイスラエル」は、上記のような手紙の全体的な教えを考慮すると、民族性にかかわらずアブラハムの信仰を継承する霊的なアブラハムの子孫、すなわち現在の聖徒たちのことだと考えられます。よって、教会はキリスト到来以降における「新しい/真のイスラエル」だとみなされます。
  • イスラエルに与えられた「祭司の王国、聖なる国民」(出19:5–6)という称号は、教会にも適用されるものです(Ⅰペテ2:9–10)。
  • イスラエルとユダに与えられると約束されていた「新しい契約」(エレ31:31–34)は、キリストの血によって教会に対して確立されています(ルカ22:20; ヘブ8:13; 9:15)
  • キリストこそが真のイスラエルであり(イザ49:3; マタ2:15; ヨハ15:1–6など)、神のイスラエルを形成しているのはキリストのからだなる教会(エペ1:23; コロ1:24)です。
  • ダビデの王国の再建に伴いイスラエルが回復させられるというアモス9:11–15の預言は、使徒15:14–18によれば、異邦人が神の民に加えられるという形で実現しています。
  • ローマ9:6–8で「すべてのイスラエル人がイスラエルではない」といわれているとおり、神のイスラエルは民族的区分ではなく信仰による民として定義されると理解されます。
  • ユダヤ人と異邦人はキリストの十字架によって和解し、新しいひとりの人を形成しています(エペ2:14–16)。よって、救いの計画においては、教会が神の民の新しい単位としてみなされます。
  • 新しい天と新しい地に関する記述(黙21:12–14)ではイスラエルの十二部族と十二使徒の名が並記されています。このことは、旧新約の契約の民が一体化されていることを象徴しています。

1−2.Post-Supersessionism(ポスト代替主義)

(1)定義
  • 神が国家的・民族的イスラエルと結んだ契約は現在も有効であり、そうした理解はキリスト教神学において重要な位置を占めているとする見解のことです。
  • キリスト教神学で支配的であった代替主義が見直された結果生じてきた視点、すなわち代替主義を否定する視点の一群であるため、post-supersessionism(ポスト代替主義)と呼ばれています。
(2)主な特徴
  • イスラエルと教会の両者は神の民として関連し合っているものの、両者を同一視することはできません。
  • 異邦人はキリストにおいて契約の祝福に加えられている一方で、イスラエルへの契約は依然として有効であり、終末において成就します。このようにして、神の契約に対する忠実さが確立されると考えられます。
  • 終末においては、イスラエル全体の悔い改めと救いが期待されます。
  • 教会は神の契約に接ぎ木された共同体と見なされます。
  • キリストはイスラエルの代表ですが、国家的・民族的イスラエルの召命が吸収・置換されたわけではありません。
(3)聖書的・神学的根拠の例
  • アブラハム契約は「永遠の契約」であり、土地の約束は無条件に与えられたものです(創15:13–21; 17:7–8など)。
  • エレミヤ31:35–37では、神がイスラエルの選びの不可逆性を誓っておられます。
  • 申命記30:1–10; エゼキエル36:22–28; 37:21–28をはじめ、多くの箇所でイスラエルの国家的・民族的再生(霊的、物理的両方の再生)が明言されています。
  • アモス9:14–15では、離散したイスラエルが約束の地に帰還し、「もう引き抜かれることはない」ことが保証されています。
  • ローマ9:4–5では「契約と約束」といった特権が、今なおイスラエルに属するものとされています。
  • ローマ9–11章にて、パウロは神がご自分の民を捨てなかったと明言し、国家的・民族的イスラエルの将来の救いを予告しています(9:27; 11:1–2, 25–29など)。
  • ローマ11:16–24にあるオリーブの木のたとえでは、異邦人を表す枝が接ぎ木された後、イスラエルを表す元の枝が再び接がれます。このことは、イスラエルの将来の回復を象徴しているものと考えられます。
  • ガラテヤ6:16の「この基準にしたがって進む人々」と「神のイスラエル」は、構文的に区別されるグループです。また、パウロによる「イスラエル」という語の用例では、常に国家的・民族的イスラエルが意図されています。よって、ガラテヤ6:16では、何らかの形で神の計画におけるイスラエルの重要性が確認されているものと理解されます。
  • 旧約で啓示された約束がイスラエルと教会の両方に対して二重に成就する、または教会に対して適用されることはあり得ます。しかし、本来の受け手である国家的イスラエルに対する最終的な成就を否定することは、約束した側である神の忠実さを否定することに等しいと理解されます。

雑感

過去に「終末論についての覚書」シリーズとして似たようなことをやろうとして、勉強不足のため携挙論以降に続かなかったことがありました。今回再チャレンジというわけですが、ある程度ストックは溜めて臨んでいるので、年内か年明けには走り切ろうと考えています。

さて、一昨年2023年には成就神学/代替主義の側からも、ポスト代替主義の側からも優れた論文集が出たことが印象的でした*6。特にポスト代替主義については、最近は資料面でかなり充実してきている印象です。

今回の整理を通して成就神学・ポスト代替主義ともに、結論ありきで闘い合うのではなく、釈義に基づいた慎重な議論が交わされてきているのだと実感しました。

参考文献

終末論全般

  • Berkhof, Louis. Systematic Theology. Edinburgh: The Banner of Truth Trust, 1958.
  • Bingham, D. Jeffrey and Glenn R. Kreider, eds. Eschatology: Biblical, Historical, and Practical Approach. Grand Rapids: Kregel, 2016.
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  • Grudem, Wayne A. Systematic Theology: An Introduction to Biblical Doctrine. Second edition. Grand Rapids: Zondervan, 2020.
  • MacArthur, John F., and Richad L. Mayhue, eds. Biblical Doctrine: A Systematic Summary of Bible Truth. Wheaton, IL: Crossway, 2017.

1−1.Fulfillment Theology(成就神学)/Supersessionism(代替主義)/Replacement Theology(置換神学)

1−2.Post-Supersessionism(ポスト代替主義)

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  • ________. Has the Church Replaced Israel? A Theological Evaluation. Nashville, TN: B&H, 2010.
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  • Windsor, Lionel J. “Israel and the Apostolic Mission: A Post-Supersessionist Reading of Ephesians and Colossians.” Religions 14/44. 2023.
  • ウィルソン、マーヴィン・R『私たちの父アブラハム─ここにあった!信仰の原点─』B.F.P.Japan出版部訳、B.F.P.Japan、2015年
  • ジャスター、ダニエル『メシアニック・ジュダイズム──基礎と視点』行澤一人監訳、マルコーシュ・パブリケーション、2004年
  • スターン、デイビット『福音とユダヤ性の回復』横山隆監訳、マルコーシュ・パブリケーション、1995年
  • 武田武長『ただ一つの契約の弧のもとで ユダヤ人問題の神学的省察』新教出版社、2020年
  • 中川健一『エルサレムの平和のために祈れ──続ユダヤ入門──』ハーベスト・タイム・ミニストリーズ、1993年

*1:Grudem, Systematic Theology, 1343.

*2:MacArthur and Mayhue, Biblical Doctrine, 829.

*3:ここでの聖書神学は、聖書の全体像や全体的メッセージの探究を指します。

*4:イスラエル論(Israelology)は「聖書におけるイスラエルやユダヤ教に関する教えを特定し、体系化することを目指す」神学分野です。参照:“Foreword” in Edition Israelogie (Frankfurt: Peter Lang).

*5:Supersessionismは、ラテン語supersedere(字義的には「上に座る」を意味し、そこから「取って代わる」というニュアンスを持つ)に由来する用語です。ちなみに、英語の動詞supersedeや名詞supersessionにも「取って代わる(こと)、交替する(こと)」といった意味があります。

*6:成就神学/代替主義の主張がメインの論文集→Bird and McKnight, eds., God's Israel and the Israel of God. ポスト代替主義による論文集→Porter and Kurschner, eds., The Future Restoration of Israel.