少し偏った読書日記

ミステリや科学解説書など少し趣味が偏ってます

風待荘へようこそ

風待荘へようこそ(近藤史恵角川書店

あけましておめでとうございます

本年もよろしくお願いします

年頭にふさわしい特別の本、とはいきませんでしたが、私の好きな作家の近著で読後感のよいものを選んでみました。

主人公は45歳の主婦。というか、主婦だった女性。夫の身勝手な理由でほぼ一方的に離婚され、一人娘の親権も父親の側に。行き場を失った彼女は、SNSで知り合った女性に誘われて、とりあえず半年、京都のシェアハウスに住み、ゲストハウスの運営を手伝うことに。

という設定の物語。

読んでみての感想。

間違いなく、ふだん私が読まないタイプの小説。謎解きの要素もなく、この作者でなければ読まなかっただろう。にもかかわらず、とても読みやすく、ほぼ中断なく読み終えることができた。

この作者の心理描写には定評のあるところだが、この作品でも、主人公の心の動きが丁寧に描かれている。また、京都の街がとても魅力的に描かれている。

主人公の苦境は、男性に都合のよい社会の仕組みや風潮によるところが多く、男として責められているような感じがなくはない。が、新しい街で、さまざまな人たちと交流し、新しい生き方と折り合いをつけようとする主人公に、すなおに共感できた。(その糸口が料理であることにも納得)

追記

今年のおせちは子供世帯が不在なので少なめに作りました。同居人からは、 煮物の味が薄い、少し貧乏くさい、との感想をいただきました。

 

全員犯人、だけど被害者、しかも探偵

全員犯人、だけど被害者、しかも探偵(下村敦史/幻冬舎

10年ほど前から活躍されている作家で、作品を読むのはこれが初めて。

ひと目でミステリだとわかるタイトル。独特で力強い。だから図書館で手に取ってみた。

不祥事を起こした会社の社長が、社長室で首を吊っているのが発見された。関係者7人が、何者かに招待されて集められ、所在不明の廃墟に送り込まれる。そこには、社長室が再現されていて、監禁された7人は、スピーカー越しに、犯人捜しのゲームを求められる・・・

読んでみての感想。

非科学的な設定ではないけれど、現実社会では、ほぼあり得ない設定。(ミステリが複雑になりすぎて、作家さんは大変だと思う)

複雑すぎる設定の作品は、面倒で読まないことが多いが、この作品は、無理なく最後まで読み通すことができた。読ませる筆力はあると思う。

特別に設計された密室での関係者による犯人捜しは、最近、翻訳ものでも読んだ。特殊な犯人像を仕立てなければ成立しないところに、いくらか違和感があったので、このブログで紹介するには至らなかった。

この作品は、内容があまりにもタイトルどおりに仕上がっていることに感心した。途中経過もそうなのだけれど、最後の真相解明で改めてそう思うことになる。

で、最終的な読後感としては、「技あり」という言葉につきる。

 

ボスポラス 死者たちの海峡

ボスポラス 死者たちの海峡(川瀬美保/早川書房

第15回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。

舞台はイスタンブール。物語は、女子大生の転落死の現場から始まる。続いて、元ピアニストの日本人女性が自殺しているのが発見される。彼女は奇妙な遺書を遺していた。そこから、イスタンブール警察の長い一日が始まる。

警察小説、といっても大きな間違いではないだろう。トルコ語のほか日本語とドイツ語を話す警部補、彼の部下で日本のアニメおたくの巡査部長、本庁から派遣されたエリート警部(小柄な女性)の3人が、遺書による告発の裏付け捜査を進める。そのうちに、日本人コミュニティの特殊な人間関係が明らかになり、警部補が事故ではなく事件ではないかと疑念を抱いていた連続転落死との繋がりも見え始めて・・・

読んでみての感想。

翻訳小説のように登場人物が多い。巻頭に登場人物が掲載されているが、何度も参照する必要があった。

全編三人称で、章ごとに視点が切り替わる。よくあるスタイルだが、視点となる人物が多いうえに各章が短く、ちょっと振り回されている感じ。それでも、中盤を過ぎると物語に引き込まれた。

全体として、日本に詳しいトルコ人作家の翻訳もの、と言われても違和感がないレベルの出来栄えだった。(一般論として、レベルの高い作品しか翻訳されない)

警察小説好きにはお勧め。また、イスタンブールという都市の魅力が存分に描かれている。

 

生きる言葉

生きる言葉(俵万智新潮新書

俵万智氏の著書。

SNSやAIが広く普及した時代を背景に、言葉を職業とする歌人が、言葉についてあれこれと考察した一冊、だろうか。自らの子育ての体験や様々なエピソードを中心に書かれているから、エッセイのように読みやすい。

表情や身振り、お互いの背景や文脈など、様々な要素なしで、言葉だけでコミュニケーションしなければならない場面が増えた時代。著者は、生きることと言葉が直結した時代だという。

その上で、今、生きるために必要な言葉とは何かを考える。話題はさまざまなことに及ぶ。子育てを通じて知った子供の言葉の学び。芝居やラップの言葉。クソリプの分類。マルハラ。ホストの歌会。和歌を作るAI。

読んでみての感想。

著者の短歌に対する思いが強く伝わってくる。短歌を詠む、ということは、自らの人生を振り返って、歌うに値するものは何か、を問うことだ。人を惹きつける短歌には人生の元手がかかっている。

河野裕子和泉式部らの「恋の歌」の解説が超絶。恋愛歌人の称号を持つだけのことはある。

「おわりに」で著者が書いているように、この本は「大好きな日本語と息子」の話に終始している。この本そのものが、著者の生き方をよく表していると思った。

藩邸差配役日日控

藩邸差配役日日控(砂原浩太朗/文芸春秋

 

図書館でふと見つけて、題名が気になって読んでみようと思った。初見の作家さん。

主人公は、「神宮寺藩」藩邸の差配役。聞きなれない役職だが、藩邸の管理をする庶務係のようなものか。事実上の「なんでも屋」で、藩邸で起こるさまざまな事件やもめごとに対応する。

短編連作で、五話で構成されている。若君の誘拐、入札をめぐる不正、妖美な女中をめぐる騒動、猫探し、そして藩内の勢力争い。

読んでみての感想。

時代小説には、宮部みゆき池波正太郎平岩弓枝佐藤雅美らの作品から入り、捕物帳や人情噺を中心に読んできた。山本周五郎藤沢周平などには藩を舞台とした連作があるようだが未読。なので、まず、内容が新鮮だった。

人物造形や心理描写が巧みで、惹きこまれた。例えば料理に関する記述は、量も少なく簡潔だが、とてもおいしそうに描かれている。この文章は私の好みだと思った。

短編連作だが、最終話が総集編のような形に仕上げられていて、ようやく騒動が収束した後に、思いがけない結末が。

思いがけないが、続編が書けないような終わり方ではないと思う。剣術の得意な部下、料亭の女将、亡き妻の妹など、気になる登場人物もいる。この作者には「神山藩」シリーズがあるようだが、こちらもシリーズ化してほしい。

 

 

 

鳥類学者の半分は、鳥類学ではできてない

鳥類学者の半分は、鳥類学ではできてない(川上和人/新潮社)

著者は鳥類学者。この人の本は過去に4冊紹介しているが、タイトルに「鳥類学者」が含まれているのは3冊目。

今作は、鳥類学者としての日常のあれこれを綴った、エッセイ風の読み物。

ネタ元がわかったりわからなかったりする「おふざけ」が多いのはこれまでと同様。一方、無駄に多い脚注は、この作品では姿を消している。

いろいろな話題が取り上げられている。小笠原諸島の希少種の消長、鳥類学大会の運営、子供電話相談での質疑などが面白かった。

既存の生物が進化して河童になるとしたら、その最有力候補は何か、というような遊びもあるが、終盤にある島の絶滅に関する章では、この著者の学者としての考えがよく表れていると思った。島は火山活動によって海中に誕生する。その後、長い時間のうちに風雨にさらされて崩れ、やがて海に没していく。島の生物は、当然、同じ運命をたどる。

しかし、小笠原諸島のある海鳥は、人間がもたらした影響により、本来、絶滅すべきではない時期に絶滅しようとしている。(原因は人間がもたらした外来種のネズミで、行政によりネズミ対策が進められている。計画どおりに事業が進められれば、美しくない絶滅は回避できるだろう、とのこと。)

著者は、別の著書『そもそも島に進化あり』の中で、地球もまた、宇宙の孤島であると述べている。

追憶の鑑定人

追憶の鑑定人(岩井圭也/角川書店

岩井圭也氏の「鑑定人」シリーズの第三作。

第一作は『最後の鑑定人』、第二作は『科捜研の砦』。ドラマ化できそうな出来栄えだと思っていたら、この夏にドラマ化された。

(私にしては珍しくドラマを見た。藤木直人氏は少しイメージが違うと思ったが)

第二作は第一作の前日譚で、民間の鑑定人として独立する前の科捜研時代を描いていた。今作は、時系列でいえば第一作の続き。

4件の事件を通じて、主人公=土門が歩んできた過去が明らかになる。愛想がなく気難しい土門だが、学生時代の仲間との交流を通じて、そうした性格に至った事情や、その陰にある真情が描かれる。

読んでみての感想。

安定の読みやすさ。今作も、土門とは別の登場人物の視点で描かれているのが、とても自然な感じ。(土門の言葉で語られることが想像できない)

助手の高倉が、とてもユニークな味のハーブティーを出し、その反応を楽しむ習慣は相変わらず続いている。そして今作では、事件の解決にも、少しばかり活躍する。

このシリーズを続けるのは大変そうだ。作者も最新の鑑定技術を調べるのに苦労している、とのこと。(近頃、多くの作品を発表し続けている作者だが、横浜ネイバーズの新作もがんばってほしい)