Nonfiction
作曲:小山寿
編曲:tasuku
新型コロナウィルスの流行は、直接の対面での交流を制限する一方、リモートワークの推進や配信でのイベント開催など、文明の恩恵も実感させた。しかし、そうした通信システムの高度な発達故に不確かな情報や「フェイクニュース」もすさまじいスピードで広まり、はたまた真実がフェイクと決めつけられる事もままある。あゆは『everywhere nowhere』で既に文明の負の側面に警鐘を鳴らし、『talkin’ 2 myself』で溢れている情報に振り回されない姿勢を見せてきた。見た目で単純に判断しない事、という括りの作品では『appears』なども挙げられるかも知れない。「We gotta be careful what’s fiction(何が作り事か、気を付けなくては)」。三連符のリズムのEDMに乗せ、クールに、シャープに畳み掛ける。
「成功が人生のゴールですか?」「人の幸せが嫉ましいですか?」。次々繰り出される歌詞はなかなか耳に痛い。しかもその後に続くのは、「その成功って何ですか?」「見えてるのは全てでしょうか?」という、更に突っ込んだ問いだ。例えばSNSで個人の発信も増えた現代、他人の華やかさに気を取られがちだが、それは承認欲求ゆえに “盛った”投稿かも知れない。「成功」や「幸せ」の何たるかをろくに考えず、「その他大勢」として流れに身を任せ、何となく「画面上だけで決めて」いるようでは、真実が見つけられるわけもない。これが、華やかな面を魅せる事が仕事とも言えるスターの言葉なだけに、余計に深々と胸に刺さるのである。「what you don’t believe(あなたが信じないものは?)」「what I do believe(私が信じるものは?)」という対比も効果的だ。
また、これまで孤独を数多く歌ってきたあゆが、対面が叶わない環境で改めて語る孤独も興味深い。孤独な代わりに「自由も無限」である事を味わっていたはずが、外から強いられる「制限」によって「なんにしろ孤独は消えない」と突き付けられる。
そして『23rd Monster』の「クソ喰らえ」と同じく、今作にも「s**t*1」という粗野な歌詞が登場する。「You’re full of s**t」で「デタラメ言ってんじゃねえよ」といった意味になるが、バッサリと斬る過激な言い回しは、「生きるのは誰だってしんどい」という実感の中で、それでも流されずに「ノンフィクション」を見極める生き様の表れだろう。
ジャケット写真はこちらに視線を投げかけるあゆ。PVでは、黒い衣装で夜のパーティーに興じるあゆと、ヴィヴィッドなピンクの空間と衣装でダンサーと共に踊るあゆを交互に見せる。パーティーのあゆが時折、心から楽しんでいないかのように見えるのは私だけだろうか。
歌詞リンク:浜崎あゆみ Nonfiction 歌詞 - 歌ネット
*1:伏せ字は筆者による