ベストアルバムを除けばフルアルバムとしては久しぶりのリリースとなったが、その数年の間に、様々な出来事があった。プライベートでは出産を経験し、世の中は新型コロナウィルスの流行で掻き乱され、あゆにとって公私を問わず状況の大きな変化があった事は想像に難くない。歌詞からは何となく察するしかないが、あの時代を経験した聞き手は特に様々な事を思い浮かべるだろう。
元より、あゆ作品は内省的、個人的な事と、広い世界に向ける視野とが違和感なく繋がるものも多く、こうして未曽有の日々が一つのアルバムに集まったのは、ある意味必然だったのかも知れない。あの時代を知っていても、知らなくても、その歌詞を一つ一つ刻み込むように聴いてみよう。
Blu-ray付属盤、DVD付属盤、CDのみ盤の3形態で発売。Blu-ray及びDVDには、7曲分のPVとメイキングを収録。また、「a-nation online 2020」を収録したBlu-rayまたはDVDとフォトブックがセットになったファンクラブ限定盤もある。ジャケット写真は、裾の長い黒いドレスを着たあゆのシックかつラグジュアリーな雰囲気のもので、CDのみ盤は上半身、他は全身を映している。
〔『Remember you』の記事 【前編】 【後編】〕
Nonfiction
13thデジタル・ダウンロードシングル。当該記事を参照。
(NOT) Remember you
作曲:加藤肇
編曲:中野雄太
これほどまでに強い拒絶と怒りを描いた作品が、過去あっただろうか。『23rd Monster』の「クソ喰らえ」、『Nonfiction』の「s**t*1」と強い罵倒語が続いた末に、今回は遂に「f**k」とまで使っている。もちろんあゆ作品は負の感情も包み隠さないし、無理解な人や害をなす人と無理に一緒にいようとはしないが、今作の表現は、余程の何かがあったと察して余りあるほどに直接的で口汚い。攻撃的なデジタル・ロックに合わせ、「Who the f**k are you?(誰なんだよテメーは)」「YOU達は記憶から既に消去済み」と、突き放す事さえ通り越して最早無関係だと締め出している。
「馬鹿やってんじゃない」「どのツラ下げて」「底辺のその更に下のライン」……次々に繰り出される、これ以上ない罵倒の言葉。一体「YOU達」は何をやらかしたのか。具体的な事は分からないものの、「笑顔奪われた小さな命」「無償の愛をくれたものたちどんだけ欺いた」と言うからには、こうして歌に残してしまうのも頷ける程の深刻な事態だったのだろう。怒りの大きさは、それだけ信頼していた事の裏返しでもある。「大切だったよ」「でも過去形だよ」という歌詞には不意に悲しみも漂う。
ただ、この歌はこうした怒りと対照的に、サビでは信頼出来る仲間との幸せも歌われる。悲しみや苦しみを「自然と癒してくれる仲間が居る」、「そんな君を見て僕が泣く そんな僕を見て君が泣く」。三連符のリズムと「てかね」で始まるサビは『EnergizE』も思い出せるが、あの軽快さとはまた違う底力が描かれている。最早誰も信じられないと嘆くのではなく、ある意味裏切りによって、変わらず信じ合える人との絆もより強く感じられたという事ではないか。覚えておくべき相手と、忘れるべき相手、それがタイトルの「(NOT)」に表れているのかも知れない。凄まじい怒りを晒してこそ、固い信頼が照らし出される作品でもある。
歌詞リンク:浜崎あゆみ (NOT) Remember you 歌詞 - 歌ネット
Dreamed a Dream
9thデジタル・ダウンロードシングル。当該記事を参照。
23rd Monster
12thデジタル・ダウンロードシングル。当該記事を参照。
Summer Again
14thデジタル・ダウンロードシングル。当該記事を参照。
ray of truth
作曲・編曲:中野雄太
インストゥルメンタル。出だしは『Kaleidoscope』や『LABYRINTH』に似た雰囲気で、静謐で繊細だが、デジタルサウンドとオーケストラサウンドを混ぜ合わせながら、徐々に何かを照らし出すように壮大になっていく。
Remember you
作曲:湯汲哲也
編曲:中野雄太
新型コロナウィルス流行下は、平時とは生活様式ががらりと変わった。不要不急の外出や、対面での人との交流を避ける。出掛ける時はマスクをして、こまめな手洗いを心掛け、人とは密にならぬよう距離を取り……。先行するデジタル・ダウンロードシングルの歌詞で、その日々の影響が見て取れる事は既に述べてきた通りだが、アルバムタイトル曲でもあるこの『Remember you』は、最もコロナ禍が表現された作品かも知れない。作曲は湯汲哲也さん。『Secret』や『Out of control』のような、じわりと切なさを滲ませる曲調のバラードである。
「裏切りに効くワクチンは どこへ行けば打ってもらえるんだろう」「あいつは一体何に感染して 人生を捨ててしまったの」とは、『(NOT)Remember you』で描かれた裏切りの事だろうか。そうであるなら、タイトルから見て、この2曲は呼応していると見た方が良いだろう。『(NOT)Remember you』で怒りを伴う決別によって今ある絆の幸福を描いたのに対し、『Remember you』は今繋がっている人を想いながら途切れ行く縁に哀切を抱く歌と言える。
「適度な距離のアクリル板」も、飲食店などでよく見かけた飛沫対策だった。「人間が持つ繊細なニュアンス 打ち消されるのは気のせいかな」と、あゆの感性は鋭く捉える。人との交流を制限した為に、飲食業や観光業など大打撃を受けた業種もあり、「毎日通ったあの店もなくなり」という歌詞が生々しい。なかなか人に会えない状況で、しがらみや足枷になる人間関係を清算出来た人もいただろうが、あゆが描くのはやはりと言うべきか、どうにもならず疎遠になっていく寂しさだ。「慣れた環境も友達も変わって」「ひとりが楽になるばかり」「登録されてる連絡先 使わなくなった名前消してく」と、やるせない程の虚しさと孤独感が滲み出る。様変わりした日常の直中にある心境を表す「思い出が宙で迷子になっている」という歌詞も大きな共感を呼ぶだろう。「あの頃はなんて昔話 出来る貴方だけは消えないでいて」という切なる想いが、どうか壊れない事を願うばかりだ。
歌詞リンク:浜崎あゆみ Remember you 歌詞 - 歌ネット
※『MASK』の記事に加筆しました。
2026年、あけましておめでとうございます🎍
あゆのカウントダウンライブに参戦した皆さん、お疲れ様でした。余韻に浸りつつ、新しい年に向かって歩き始めた事と思います。
日本を飛び出して活躍するあゆは、やはり平坦ではない道程を歩みました。その突き進む姿にはいつも勇気をもらいます。
願わくは新しい1年が、あゆにとって良いものになりますように!!
*1:伏字は筆者による。以降も同様