私の中の見えない炎

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中島丈博 × 井上淳一 トークショー レポート・『現代やくざ 血桜三兄弟』『元禄繚乱』(2)

野上龍雄の想い出 (2)】

中島「ぼくは東映の『現代やくざ』シリーズもチャンバラも書きたくないから、作品上、野上さんに触発されたというのもないんで。野上作品もそんなに見てないんですよ」

井上「野上さんに言われたのは「エンタテインメントというのはな、いちばん低い者の目線で物語を見ることだ」って」

中島「ぼく自身は野上さんより目線が低いと思う。田村孟さんにもそう言われたね。野上さんみたいに東大を出てないし、四国の田舎の高卒で。

 野上さんの目線が低くなったのは吃音があったこと。お母さんはぼく1度見たことあるんだけど綺麗なおばあさんで。野上さんは(本人が言っている通り)妾腹だった」

井上「松竹を2回受けて、中村登監督が面接官で「きみのことは去年も問題になった。筆記試験では1位なんだけど、どもりじゃ助監督は務まらないんだよ」って落とされる」

中島「痛いね。そういう屈辱もあって、彼は目線の低さを自覚したんじゃないですか。

 こないだ国際的な賞をもらった人、何とか裕二。あんなのなんかぼく大嫌い。目線が高いよ。殺人した被害者と加害者の男女が出会って好きになっていくって、目線が高くないと書けませんよ。あいつなんかのさばっていくんだと思うと不愉快でしょうがない(一同笑)。

 野上さんは才能がもっとあったと思うんですよ。こうやって(『現代やくざ 血桜三兄弟』〈1971〉のような)娯楽に徹したということは一面で、もっと別の局面の才能を持っていながら封じてたと思ってる。「アアアアナロジー」って言ってた。アアって言うから何を言うんだろうと思ったら、さすが東大だけあって「アナロジー」なんて。そうかアナロジーかあ(一同笑)。言うことが違うじゃない? 書きたいことは別にあったと思いますよ」

井上「野上さんはNHK東宝だけからは仕事が来なかったって言ってました」

中島「『血桜三兄弟』なんか書くからだよ(一同笑)。こんな(暴力的な)の書いたらNHKから来ないよ。ぼくはロマンポルノだったけど(NHKの仕事をしたのは)エロは別なの。エロはハードルが低いし、抑えることができる。直接描写しなくても、男女だからセックスはいくらでもあるじゃない? 直接描くか描かないかだけ。NHKだってそういう話を書いてますからね。

 野上さんはこっち(暴力路線)で売れて銀座とかに飲みに行くんですよ。ぼくら5、6人引き連れて行くんだけど、みんな自分で払うんですよ。自分では財布から金を出さないで、ホステスにばーんと財布を渡して、ホステスが札を引っ張り出して「払ったわよ、野上さん」。おごってくれて、さっぱりしてて田舎者と違うなあ」

井上「プロデューサーにも払わせなかったようです。借りができて、対等な話ができなくなるから」

【その他の発言】

中島「(自分の作品に安保の影響は)あったかなあ…? 変革は肌で感じて、安保闘争のときは橋本(橋本忍)さんと熱海の旅館にこもってる最中で「えらいことになってるぜ、東京は」って。橋本先生も「見に行こうかねえ」とか言ってたけど、そのうちにぼくらは行かずじまいで終わった。日本で盛大なデモらしいデモなんてあれだけだね。フランスで五月革命とかあって世界が変わってきてるというのはあったけど、ぼくの場合は、影響されることはなかったんだよ。

 それよりアメリカンニューシネマのほうがすごかった。世界の潮流によって発生したんだろうけど、ぼくは特に影響された。(シナリオ作家は)裕次郎石原裕次郎)とかスター作品を書くのが普通だったけど、自分のことを書いていいんだと。アメリカンニューシネマはみんなプライベートなことを書いてるじゃないか。『ファイブ・イージー・ピーセス』(1970)とか。それならってことで『祭りの準備』(1975)を書いた」

 大河ドラマ元禄繚乱』(1999)では、大石内蔵助役の中村勘三郎やりく役の大竹しのぶと打ち上げで揉めたという。

 

中島「向こう(勘三郎)から喧嘩をふっかけてきた。もともと勘三郎の振る舞いが気に入らない。勘三郎は、ぼくがオリジナルでつくった役の吉田栄作を、打ち上げのときに壇上に上げないんですよ。おかしいんじゃないかってプロデューサーに食ってかかったの。自分が率いた四十七士だけ壇上に上げて、脇の吉田栄作とかを上げない。ぼくは絶対許さない。プロデューサーは吉田に何か言って、吉田は「中島さん、ぼくは何とも思ってないですからね」って来たけど、登場人物を大切にするっていう作家としての問題だから。そこへ横から勘三郎がからんできた。「おれらに喧嘩売る気か」と。ぼくは「あなたの目は死んでるよ。アップに耐えられない。舞台だったら首振って見え切って何とかなるかもしれないけど、映像は違うからね!」(一同笑)。勘三郎は壇上に上がって「おい、みんな聞いたか。おれの目は死んでるか、おい!」。まず息子の大石主税中村七之助)が「死んでない。死んでない」。みんなも「死んでない。死んでない」(一同笑)。

 大竹しのぶにぼくが余計なこと言っちゃって。「しのぶちゃん、今度誰と結婚するの」とか。大竹しのぶが怒って、勘三郎に「おかまとかホモとか言ってやりなさいよ」って。それで勘三郎は「おい、おかま」。ぼくは「あんた、歌舞伎役者がそんなこと言ってどうするの。きみのお父さん、公衆便所で男あさってるっていうじゃないの。あれ、おかまじゃないの?」って言ったら、勘三郎の顔が引きつった。「中島、お前なんかと二度と仕事するか」「帰れコールをやろう」って言っておれに「帰れ」「帰れ」。勘三郎は中島にもう二度と東宝の仕事をさせないとか新聞で言ってましたけどね。ぼくは、大竹しのぶとはその後も仕事をやったんじゃないかな」