★条件悪すぎ
今年のペルセウス座流星群(以下、「ペルセ群」)は、期待していませんでした。
2つの「悪条件」が重なっていたためです。
①月齢悪すぎ
極大となる8/12~13の月齢は18~19。ちょうど満月と下弦の月の中間くらいで、非常に月明かりが強く、暗い流星をかき消してしまいそうです。
②お天気悪すぎ
夏真っ盛りだというのに連日ぐずついた天気。ペルセ群の極大日も曇天予報でした。
そんな訳で、2023年の時のようにプチ遠征する気力も失せ、実家のお庭で『念のため撮影』するという消極的な作戦を立てました。
★今年は写真ではなく動画オンリー
さて、去年のペルセ群では人生初となる「流星の動画撮影」を試してみたのですが、スチル写真(普通の写真)とくらべて短時間露光となる動画撮影の方が格段によく写ることを確かめていました。
これは、流星が「移動体」であることに起因します。
流星は素早く動くので露光時間を長くしても全く明るくなりません。それに対してバックグラウンドは『動かない』(ずっと光っている)ため、露光時間を長くすればするほど明るくなります。この際、露光時間を増やすことは、流星自体のシグナル(捕獲光子数)が増えないのに対して、背景の光子数が増えることに伴い光子ショットノイズが増大します。そのため、後から背景輝度を差し引くなどの画像処理を施しても(到来光子数の揺らぎとしての)ノイズが残ってしまうため、結果としてS/N比が悪化してしまいます。大まかな計算をするなら、露光時間をN倍にするとS/N比は1/√N倍になります。
では、光子数揺らぎがポアソン分布にしたがうと仮定した場合に、静止した天体と移動する流星について、露光時間を増やすことがどう寄与するか、モンテカルロシミュレーションしてみましょう。
<星雲などの動かない(常に同じ場所で輝く)天体>

左上のグラフは、理想的条件として想定したシグナルです。横軸は位置を表し、縦軸は到来した光子数を示します。なお、画像処理時に背景輝度を差し引いた状態を仮定しているのでバックグラウンドの平均はゼロになっています。
露光時間が短い場合は、光子ショットノイズの影響で、星雲本体・背景ともに大きく揺らぎますが、露光時間を増やすとともに理想像に近づいていくことが分かります。これは、光子数がN倍になると「シグナルはN倍・ショットノイズは√N倍になる」ために「背景がゼロ・星雲の明るさが揃うようにレベル調整」することによって、S/N比はN/√N=√N倍に向上することに起因します。すなわち、鑑賞者の目にはあたかもショットノイズが1/√Nに低下したように感じられるという訳です。なお、露光時間を延ばす代わりに「より明るいレンズを用いる」「より多くの画像をコンポジットする」などでも同様の効果が得られます。
<流星などの移動(ピクセル上に差し掛かったときだけ光る)天体>

左上のグラフは、理想的条件として想定したシグナルです。横軸は位置を表し、縦軸は移動する流星がピクセルに順次落としていった光子数の累計を示します。なお、画像処理時に背景輝度を差し引いた状態を仮定しているのでバックグラウンドの平均はゼロになっています。
移動天体の場合は露光時間を伸ばしても「もうすでに、そのピクセル上には居ない」ため、静止天体とは逆に、露光時間をN倍に増やしてもシグナルは増大しません。ところが背景光は露光時間をN倍にするとショットノイズが√N倍に増加します。そのため、S/N比は1/√N倍に低下してしまいます。すなわち、鑑賞者の目にはあたかもショットノイズが√N倍に悪化したように感じられるという訳です。なお「より多くの画像をコンポジット」しても同じ結果になりますが、「より明るいレンズを用いる」場合は流星本体から飛来する光子を実際に多く捕獲できるため、S/N比は良くなります。
ここまで考察ごっこしただけでも、流星の撮影ではできるだけ短い露光時間が有利なのは明らかなのですが、ダメ押しとして、流星の実写画像を用いてコンポジット(露光時間を延ばすことと同義)した場合の様子を比較してみましょう。

このように、
コンポジットして総露光時間を増やすと流星は淡く(正確にはノイズの海に沈む)ことが分かります。これは、一発撮りの場合でも露光時間が長ければ長いほど流星が不明瞭になることを示します。
★カメラとレンズの選定
さて、いきなり難儀そうなお話が続きましたが、これが、今年は動画撮影のみで乗り切ろうと判断した理由です。
では、動画撮影に良さそうなカメラとレンズを選定することにしましょう。
今回、スタメンに選抜された選手は、下記の4機です。

左から順に、
ニコンZ50Ⅱ+シグマ20mmF1.8
ニコンZ30+ニコン12-28mmF3.5-5.6
ZWO ASI1600MM-Pro+TTArtisan10mmF2
ZWO ASI1600MM-Cool+TTArtisan10mmF2
です。
さて、ここで準備作業として必須なのは、2台の冷却CMOSカメラに装着したレンズの「合焦範囲調整」(フランジバックの調整と同じ目的)です。
TTArtisan10mmF2は「安くて良い写り」というコスパ抜群の超広角レンズなのですが、弱点として「無限遠にピントが来ない個体が混入している」ことが上げられます。つまり、ピントリングを無限遠方向いっぱいに回しても前ピンになり星がピンぼけになる恐れがあるということです。しかし、安心してください。このレンズは「そういう自体に備えて、ユーザーサイドで合焦範囲を自由に調整できる」という素晴らしい機構が実装されています。
では、早速ライブビュー映像を見ながら、調節をしていきましょう。

まずは、上記のように無限遠いっぱいまでフォーカスリングを回しても、前ピンになっていたとします。

フォーカスリングをよく見ると、3カ所ねじ頭が見えることに気づきます。精密ドライバー(マイナス)を用いて、このねじを3カ所とも緩めます。

すると、驚くべきことに
「ヘリコイドは動かずに、距離指標が書かれているリングだけがフリー回転する」ようになります。そこで、たとえば、ピント位置はそのままでこの距離指標リングを「2m」のところまで回します。
緩めたねじを締め直します。普通に考えると「ヘリコイドを最短長まで回しきっていたので、それ以上何も起こるハズがない」と感じるのですが、実は
「ヘリコイドの可動範囲を制限しているのは、ヘリコイド本体ではなく、距離指標リング」(たぶん、ここにストッパがついてると思われる)なのです! そのため、
限界まで縮めていたハズのヘリコイドが距離指標が無限遠になるまでさらに回るようになります。

根気強く
この作業を繰り返し、無限遠にピントが来るように調節します。
個人的には、無限遠マークまで回すと後ピンになる、いわゆるオーバーインフ気味の調整がオススメです。望遠鏡でピント合わせをする場合と同様、「行きすぎたら戻す」工程が可能となることで合焦作業が楽になるからです。
★三脚の選定
今回は、赤道儀などで追尾は行わず、固定撮影で動画を撮ることに決めていました。
そうなると、大型の三脚は不要なので、手持ちの三脚群のなかから下記の3つを選定しました。

左から順に
スリック マスターデラックスⅡ
マンフロット 190
ベルボン SX-601B
です。
このうち、もっとも頑丈なSX-601Bには並列プレートを取りつけ、2台の冷却CMOSカメラを搭載することにします。なお、そのうち1台のカメラは直付けではなくパノラマ雲台を介して搭載し、向きを左右に振れるように工夫しました。
★各機出撃ッ!
さて、月光も雲も関係ありません。今回は、まず「出撃すること」に意義があります。
冷却CMOSカメラ2機、セットアップ完了!
Z30セットアップ完了!
Z50Ⅱセットアップ完了!
全機戦闘態勢ッ!ちなみに、上記のスナップを見ると分かるように、4台のカメラで東天・西天・南天・北天の主要部分をそれぞれカバーする作戦です♪
実家のお庭は、幸か不幸か周囲を民家に取り囲まれているので視界が狭く、4台のカメラがあれば「見える空全部」をカバーすることができます。
★意外に悩んだ設定
ミラーレス一眼であるZ30とZ50Ⅱは、適当に星空に向けて動画を撮るだけで良いのですが、問題は2台の冷却CMOSカメラの設定です。
①30FPSが出せるようにする
②データはギガビットイーサの有線LANで屋内のPCに内蔵された1TB_SSDに直接書き込ませる
以上、2つの条件を満足させるために
SharpCapの設定で2つの設定を行いました。
・3x3ビニングする(ハードウェアビニングON)
ここでいうZWOのハードウェアビニングは、公称によれば「カメラ本体内部でソフトウェアビニングするだけのインチキ」なのですが、今回は有用です。本来PCがやるべきソフトウェアビニングの仕事をカメラがやってくれるため、計算コストが低くなり、しかもビニング後の画像を吐き出してくれるため、カメラ・PC間のデータ量を抑えることができます。その結果、大幅に連写速度が上がります。
・8bitSerで出力(ハイスピードモードON)
本来16bitであるSer動画の深度をあえて8bitに指定しました。当然、階調は乏しくなりますが、8bit出力指定した時だけはASI1600シリーズの必殺技「ハイスピードモード」が選択できるようになります。ハイスピードモードが発動すると、通常の12bitADCに代わり10bitADCが働くようになり、大幅に連写速度が向上します。
2台とも上記の設定を施した上で、シャッター速度を33m秒にすることで目標の30FPSを目指します。撮像PC側の処理能力がボトルネックになると致命的(実は、前日に第10世代のCorei5ノートPCで試験してみたところ、上記設定でも1~2FPSまで速度低下したり、無反応になったりして撃沈しました)なので、Ryzen7搭載のミニPCで制御することにしました。
さて、残るは有線LANの転送とデータ書き込みの問題です。
ASI1600シリーズは4656×3520の約1640万画素機です。
これを8bit出力で運用するので1640万×8bit=13億1200万bit=13億1200万÷(1024^2)=約125Mbit
3x3ビニングしているので、125Mbit÷(3^2)=13.9Mbit
30FPSだと13.9Mbit×30=417Mbit=417÷1024=約0.41Gbit/秒
これが2台分あるので、0.41Gbit×2=0.82Gbit/秒
・・・セーフ!!
きわどいですが、ギガビットイーサの転送速度範囲に収まりました。
データ記録用のデスクトップPCに送ったデータは1TBのSSDに書き込ませます。
1TBのSSDは実際には930GBの容量なので、930GB×8bit÷0.82Gbit=9070秒
ということで、だいたい2時間30分ほどは連続撮影できそうです。
あとは、順次SSDからHDDにデータを移動させれば、3~4時間程度は撮影続行できるでしょう。
分かりやすく30FPSの5分間露光を1セットとして連続撮影することにしました。
最後になんらかのタイミングで転送や書き込みが詰まった場合に備えて、それぞれのカメラに1GBのキャッシュを割り当てました。
★かくして・・・
結局、23時頃から明け方4時くらいまで約5時間の撮影を続行しましたが、その間、なんと
「ドロップ(コマ落ち)ゼロ」
という素晴らしい動作を見せてくれました♪
ただし、前述の「SSDからHDDへのデータ移動」が詰まったときなどでは最大で500フレームほどの遅延が生じましたが、キャッシュに上手く吸収されてコマ落ちを防止できたようです。(キャッシュを使った場合は、5分露光が終わって次の撮影が開始する前にデータの書き出しが発生するので、若干のデッドタイムが生じますが、1つの動画ファイル内での遅延やコマ落ちは皆無でした。)
まあ、この辺りの挙動(何をすれば高速動作するか・データが軽くなるか)は自作霧箱実験のメインカメラとしてASI1600MM-Coolを愛用していた頃に把握しきってましたので、目論見通りにいって当然なのですが、ASI1600シリーズで高速連写させたのは久しぶりだったので、ドキドキハラハラしました。
というわけで・・・
ででん!
※8月13日~14日未明にかけて撮影した動画のうち、写りが良かった物を2例選びました。
お気軽撮影のつもりが、えらく手間が掛かったけれど
・・・めでたし♪
えっ?!
「2匹のミラーレス一眼はどうしたのだ?」
ですか・・・
ええと・・・その・・・ISO1万6000~2万まで上げたけれど、なんだか画像が暗すぎて流星が1匹も写ってなかったのさ!
てへぺろ(笑)
★★★お約束★★★
①本撮影記は、8月12日深夜から14日未明までの悪戦苦闘を、さらりとまとめたものです。
②冷却CMOSの各種設定については、あくまでも個人的な経験値であり、最適なものとは限りません。
③流星と星雲の写り方の差異についてのシミュレーションはExcelを用いた簡易的なものですので、正確性は保証できません。
④TTArtisanのレンズについての調整方法は、あくまでも個人の手法であり、公式なものではありません。
⑤コマ落ちしない条件に関しては、あくまでもザックリとした簡易見積もりのため、正確性は保証できません。
⑥ミラーレス一眼で撮った動画に関しては、いつか画像処理して救済すべきですが、冷却CMOSの方に力を入れすぎたため、やる気を喪失してます。
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