大正二年十二月
絵本筋書 帝国劇場
第二
サロメ(妃ヘロヂアスの娘) 松井須磨子氏
ヘロド、アンチパス(猶太王) 倉橋仙太郎氏
ヨカナアン(預言者) 澤田正二郎氏
ナアマン (首斬役) 鎌野誠一氏
若きシリア人(近衛の大尉) 中井哲氏
妃ロヂアスの扈従 宮島又雄氏
カツパドシア人 波多●譲氏
第一の兵卒 田中介二氏
チグルリヌス(若き羅馬人) 田那若男氏
第二の兵卒 酒部良一氏
第一のナザレ人 花田幸彦氏
第二のナザレ人 渡邊秀雄氏
第一の猶太人 小川落葉氏
第三の猶太人 駒山草二氏
ヌビア人 宮路千之助氏
第二の猶太人 中田正造氏
第三の兵卒 花岡染雄氏
第四の兵卒 水野秀次郎氏
黒人 倉若梅二郎氏
同 井上清氏
同 玄哲氏
同 竹内慶雄氏
ヘロヂアス(猶太王の妃) 波野雪子氏
サロメの侍婢 小野しをり氏
同 川路歌子氏
同 松田久野氏
同 勝山御代子氏
オスカー、ワイルド作
中村吉蔵訳
第二 悲劇 サロメ 一幕
『猶太王ヘロド、アンチパスの宮殿』
ヘロド王の宮殿の高台に、衛士四五人、王が内殿に酒宴の間を見張りの態、処へ王妃と先王との間に生れた姫サロメ、王が屡々厭らしい眼を向けるのを嫌つて、酒宴の席を遁れ来て、空井戸に捕へられて居る預言者ヨカナアンの声をきゝ、それを連れて来させる、生き乍らの墳墓とも云ふべき処から出されたヨカナアンは、盛に姫の母なる王妃の悪行を罵るけれど、サロメは之に耳を假さず、預言者の奇しき美に情を動かし、放膽な言葉を吐く、ヨカナアンは之を叱して再び空井戸に入る、王、王妃を携へて登場し、サロメに舞を所望する、サロメは王より、その望むものは、例令国の半なりと與へるとの約を得て、七面紗の舞を舞ひ、終つてヨカナアンの首を所望す、王はそれだけはと、他のものと替へん事を請ふけれども、サロメは聴かず、刑吏を送つて、首を斬らせ、やがて、銀の大盤にのせて首を持ち来るや、否や忽ち其の唇に接吻す、王は怖れ、且つ怒り、『此女を殺せツ』と叫べば、兵卒突進して、盾の下にヘロヂアスの女ユデアの皇女サロメを圧殺す。
〔蔵書目録注〕
なお、この絵本筋書には、下のある一文である。
帝劇女優劇に挟みて
藝術座『サロメ』の上演
松井須磨子嬢談
今回帝劇の興行に挟みまして、サロメを上演致しましたが、作者オスカー、ワイルドが、一流の嗜好に由 よ つて、他人の模倣を容 ゆる さぬ程ふんだんに美學の要義を使用して、短少の時間内に、極めて複雜した事件が含まれて不義の情誼が纏綿して居る身のサロメは、淺い肉的の戀愛に陥つて了 しま ふという筋で、初めから終ひまで、非常に濃婉なもので強烈な色彩と妖婉な形體、豊麗な言葉とで、舞臺面は恰 まる で寶石を鏤 ちりば めたやうなものでありまして、サロメがヨカナァンの聲を聞いて戀々の情火を燃やす邊は、肉的な冷靜な愛を發揮して見せる處でせう、こんなものですから、舞臺の艶麗なことゝ、内容の豊富な點とは、たしかに好劇家の觀賞を値すべきものと信じますが此の全體の調和が取れない場合になりますと、單に筋を運ぶに過ぎない芝居に堕 だ して了ふ恐れがありますので、何處 どこ までも此の心持を以て、東洋的の肉 肉的な愛を現はすといふ點と、サロメ當人が王女であるといふ點から其の品位を保ちます上に於ても平素専用して居ます平尾賛平商店のレート化粧料で充分に地肌が出來て居ます處へ、特にクレームレートを引いて擦り込みましてから拭き取り、十二分の地肌を作り上げました上で、レートヂェリーを化粧下にしまして襟へはレート固煉白粉 かたねりおしろい を重ねて濃く塗 つ け、薄紅 うすあか くぼかしまして、四周 まはり の色彩や衣裳との調和を失はないやうにする工夫に於ても、それ〲の研究を積みまして、漸くサロメらしいサロメに扮して演活 しいか せるかと思ふまでになりました次第でサロメの價値を認められますと共にレート化粧の美が認められるのです